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”レコードを聴いてみて”『29+1』


《29+1》電影版:先導預告

 大阪アジアン映画祭2017、三本目!

 30歳を目前にしたクリスティ。仕事では突然の抜擢に苦しみ、長年の付き合いの彼氏とは噛み合わず……。父の死やアパートの退去が重なって苦しんでいたところ、家主の親戚のパリ旅行の間に部屋を間借りすることになる。部屋の主ジョイスの残したビデオレターを見るうちに、同い年ながら正反対の人生を送っているジョイスに、クリスティは不思議と共鳴して行く……。

 一昨年『点対点』という映画があり、香港を美しく撮っているのであろうが、どうにもムード依存が過ぎて辛く、絶賛評を他所に辟易してしまったことがありました。今作はその『点対点』枠とちょっと共通する部分がありつつも、トリッキーな構成が光る一本。

chateaudif.hatenadiary.com

 原作は一人で複数のキャラクターを演ずる一人芝居なのだが、その主演をした演出兼女優の人が自ら監督し、一人芝居じゃなく複数の役者をきっちり当てはめて映画化した、ということ。なるほど、後から知って振り返れば、二人の主要人物のモノローグ中心の構成にその形が見える。肉付けの仕方が上手くて、大きくふくらませつつもスマートに仕上げている印象。

 前半、仕事に疲れ、恋人との仲にも迷いを抱える女の、三十歳を目前にした苦悩を描き、世間の目に追い詰められ疲弊して行く様を見せる。後半は、ひょんなことから彼女と全く違う人生を送っている女性との交わらないはずの交錯を経て、自分を見つめ直して行くという話。
 前半の主人公が、美人なのにすでにもうアンチエイジングに追い回されて疲弊しているのに対し、後半の主人公は太ったメガネ女なのだがコンプレックスに陥らず自由に生きている……とまあ、ビジュアルからして対極的な配置になっていて、「喪女の方が人生の真理を知っている」という乱暴な括りができてしまう。このあたりは元が一人芝居で同一人物が演じ分けで区別してるんだから、ここまでわかりやすくしなくても良かったんじゃないの、という気がしたな。

 主人公たちが30歳直前ということで、その世代向けの話なのかと思いきや、作中の時代設定は90年代。当時に30歳を迎えた世代、ということで、現在は40代になっている人が、どストライクのゾーンということになる。作中で小道具として度々登場するウォン・カーウァイレスリー・チャン……彼らの映画に熱狂した世代への賛歌なんですね。

 オシャレの代名詞としてウォン・カーウァイをそのまま映画の中に出してくるセンス、憧れの場所がパリだったりと、少々拒否反応を覚えてしまうところもあって、個人的には好きではないが、まあなかなかいい映画ではあると思う。ハマる人はハマりそうだな……と思ってたら、今映画祭でも観客賞を受賞したそうで、それも納得でありました。