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”投げる、揉む、殴る”『シークレット・オブ・モンスター』

映画


『シークレット・オブ・モンスター』予告

 独裁者映画?

 ヴェルサイユ条約締結直前の1918年フランス。条約のために送り込まれたアメリカ政府高官、その美しく信仰心厚い妻、そして天使のような美貌の少年……。だが、少年は暴力的な衝動を発露し、両親に不満と苛立ちをぶつけ続ける。彼の心の奥には何があるのか? そして運命の夜がやってくる……。

 なぜ独裁者は誕生したのか? ……と予告で言ってたので、まあそういう話として観たわけだが、仮に予告を観てなければ「?」となっていたかもしれないなあ。

 第一次大戦後のドイツの処遇を巡る平和条約締結寸前から物語は始まる。四章に分けて構成され、最初の三章で少年のキャラクターと、独裁者への軌跡が描かれる。
 天使の格好をしてるのに、いきなり人に石をぶつけまくる暴力性が発露し、親や牧師に屈辱的な折檻を受ける。美しい家庭教師の透け乳首に興味を持ち、授業中にいきなり乳揉みしてまた怒られる。政府の高官が来ているのに家中を裸でウロウロし、また折檻されて腕を折られる。ついには神への祈りを拒否し、母親を石で殴り倒す。
 大雑把にピックアップするとこんなところで、その裏には父親の愛情の不在、母親の抱える後ろめたさと秘密がある、ということが浮かび上がってくる。

 見終わった後から俯瞰してみると、それなりに構造も見えてくるのだが、見てる間は拍子抜けで、この後何が起こるのか? 子供が癇癪! 天使ちゃんが悪魔くんに! みたいなお怒り劇場が続き、これと独裁者といったい何の関係があるの……?と思ってしまったところ。少年の出自や環境、あるいは生来のもの、それらが複雑に絡み合ってやがて独裁者を生んだ……とまあそういうことなんだろうが、映像こそ美しいが思わせぶりなだけで映画的にインパクトを残す部分がないので、どうしてもぼんやりとした印象になってしまう。

 ところで『アルスラーン戦記』という田中芳樹の小説があって、最近アニメ化などもされているが、あれも似たような設定で、両親と血の繋がりがなく愛情を受けていない少年が主人公だったのだよね。彼はまさにそれゆえに、暴君ではなく人の痛みがわかる良き統治者になり奴隷制度廃止を志す。
 今作は同じく親の愛情を受けていない少年が、逆に暴君、独裁者になるというお話で、それは本当に単に「設定」でしかないのだな。実際にそうなっていく過程がいかにもそれっぽく描かれているようで、石投げに乳揉みではちょっと薄っぺらに過ぎないか……。公式サイトの監督コメントを読んだら「あんなに髪型にこだわっていたナルシストだったのに、大人になったらハゲてて皮肉だ」みたいなことが書かれていて、すごく表層的ですね……。

 第四章では独裁国家が誕生してるんだが、第一次大戦後にどうやってそんな国が誕生したのだろう、ということは綺麗にすっ飛ばされているし、少年がどうしてその地位についたのかも謎である。もちろん、ヒトラーを念頭において見るべきなのだろうが、ヒトラーの生い立ちはもうちょいリアルな映画になるだろうよ。
 最後の二役目パティンソンが出てくるところは、ものすごい驚かせどころ!だったと思うのだが、如何せん少年時代が全然パティと似てないので、実は独裁者は少年じゃなく、思わせぶりに登場してた一役目のパティンソンがそのまま偉くなったのかと思ってしまったよ。そう思われないように、プレスコットという名前を呼ぶシーンとかで工夫してるんだと思うが、もう少しキャラ立ちがないとインパクトに欠ける。

 作り手には絵作りなど何がしかの才能はあるんだろうが、ストーリーテリングに結びつかずキャラも立たず揺さぶられるものがなかったな。スコアの暴力的なパワーに対し、腰砕けの映画でありました。

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