”離陸許可は取り消す”『コロニア』


エマ・ワトソン主演 映画 『コロニア』 予告編

 エマ・ワトソン主演作!

 ドイツからチリにやって来たキャビン・アテンダントのレナは、現地にいるジャーナリストの恋人ダニエルと久々に会っていた。だが、突如クーデターが起き、ダニエルは反政府活動家として密告され逮捕されてしまう。彼が表向きは慈善施設として知られる「コロニア・ディグニダ」に送られたことを知ったレナは、一人潜入を決意するが……。

 エマ・ワトソンが初めてハードコアな社会派ドラマに体当たりの熱演!という触れ込みを読み、結構楽しみにしていた映画。共演はダニエル・ブリュール君! 『シビル・ウォー』の大活躍も記憶に新しいですね。

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 舞台はチリ、ピノチェト軍事政権誕生前夜。当時の大統領を支援する活動に参加していたブリュール君と、彼を訪ねて来た恋人のエマ・ワトソン。慌ただしいバカンスを過ごすはずが、クーデター勃発により、ポスターを描いたり写真を撮ったりしていたブリュール君が反政府活動家として逮捕されてしまう。釈放されたエマ・ワトソンは捕まった彼が送り込まれた「コロニア・ディグニダ」という施設の存在を知るのだが、ここがまたとんでもないところだった……!

 表向きは宗教施設で、聖職者である男が運営している……はずだが、なんと元ナチス党員! ナチス残党が南米に多数亡命したというのも有名な話ですが、まあここまでおおっぴらに権力握っちゃってるというのは驚きですね。
 地上にはカルト宗教施設の団体、地下には軍と結託した拷問用の施設。敷地は全て高圧電流の流れる鉄柵で覆われ、カルト宗教に洗脳された構成員が武装し無償で守る……まさに無敵の要塞ですね。
 そこに監禁され、頭に電流を流され、仲間の居場所を吐かされそうになるブリュール君! 拷問は続き、結局吐いちゃったのかどうか不明瞭だが、ついに昏倒して病院送りに!
 そしてエマ・ワトソンは恋人を救うため、迷える入信者を装って施設に侵入する……。こちらはカルト宗教の教義に辟易! 教祖シェーファーを演じるのはミカエル・ニクヴィストさん。悪役多いな〜。エマ・ワトソンにブラウスをはだけさせ、「この娼婦め!」と説教!

 しかしブラジャー見せただけで体当たりの熱演か……と、この時点でちょっと思ってしまったあたりから、少々雲行きが怪しくなってくる。ここまではなかなかの緊迫感だったのだが、わりとあっさり信用されたエマ・ワトソンに続き、ブリュール君も病院でつかんだひらめきで、脳を破壊されたバカのふりをするという作戦が功を奏し、まったく疑われなくなる……。いや、アイディアはいいと思うんだけど、もう一つ信用されるに足る熱演が欲しかったところ。
 全年齢映画だからか、教祖様の小児性愛趣味も匂わされるだけだったりと、全体的にぬるめなのだが、これから拷問されるかと思われたエマ・ワトソンがビンタ一発で済んでしまったり、ビジュアルがぬるいのに加えて、展開もぬるい。施設の実態を描くのが主眼ではなく、思いの外エンタメ寄りで、テンポも良くて急に1ヶ月ぐらい経過して、やたらとポンポン進んでしまう。それらが全て主人公二人にいいように作用し、どうしてもご都合主義的に見えてしまうな。
 終盤は脱出計画が中心になるのだが、この計画も綿密とは言いがたく、また二人が施設内を自由にウロウロしすぎに見えるので、すべてにおいてラッキー過ぎに見える。どこに出るかもわからんまま決行とか、何も考えてないではないか……。

 また、本来なら隠されたまま平然と存在し続けるはずだった施設が、ブリュール君が撮影し、決死の脱出を成功させたことによって、写真という形で世界の明るみにさらされる……ということなのだが、「拷問用に使ったマットレスのないベッド」とか「暗い廊下」とかのいかにも迫力のない写真がキーアイテムのようなそうでもないような、うっかり忘れられたり杜撰な扱いをされているのを見ていると、?マークが脳裏を駆け巡るのを止められないのである。
 つまらないわけではないのだが、実話ベースにしてはどうも軽く、同じ宗教施設ものなら『サクラメント』の不気味さを混ぜればもうちょっと締まったかも……? あれは短すぎて駆け足過ぎたが、今作の4ヶ月はちょっと長かったかもな……。

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 まあラストは『ハドソン川』に続く機長の英断がズバリと決まったので、良しとするか……。ああいう時に決断できるかどうか、まあいいや飛んじまえ、と思えるかどうかが歴史の分かれ目になる、というのはなかなか重要なテーマじゃないかね。主役があまり関係ないですが……。