”白線を越えさせない”『ディーパンの闘い』


映画『ディーパンの闘い』予告篇

 カンヌ映画祭パルムドール

 内戦の続くスリランカを逃れようとする元兵士ディーパン。赤の他人である女ヤリニと、少女イヤラルと偽装家族を作った彼は難民審査をくぐり抜けてフランスに入国した。パリ郊外の団地の管理人に落ち着いたディーパンは偽の家族を装いながら平和な暮らしを求めるのだが……。

 ジャック・オディアール監督の新作は、難民問題で揺れるヨーロッパでそのものズバリのものが来ましたよ。
 主人公のディーパンを演じるのは……全然知らない人だ! すごい普通のおじさんに見えるが、作中の設定と同様にガチの元兵士だそうである。国外へ逃れ、フランスで難民認定を受けるために必要なのは「家族」なので、難民キャンプで偽の妻と身寄りのない少女と寄せ集まって偽家族を作り上げる。他人のパスポートをブローカーから買うのだが、奥さん役の女は歳も違うしあまり似ていない……。老けてみせろ、あともうちょい痩せろと言われるのだが、いざ入国に成功したらめっちゃ太ってたので笑った。

 入国しても全然仕事がなく、猫耳つけて露店でおもちゃ売るぐらいしか生計の手段がないのだが、どうやら団地の管理人の仕事に潜り込むことに成功するディーパンさん。偽妻と偽娘もいっしょに行くのだが、こうして肩を寄せ合って暮らすしかないのだな。
 なかなか真面目な働きぶりを見せるディーパンさん、全然言葉が通じないので、郵便物の仕分けを苗字と名前間違えたせいで無茶苦茶にしちゃったりと最初はやらかすのだが、現地ではもはやこういう移民は珍しいわけでもなく、段々となじんでいく。
 しかしマンション管理業としては、このディーパンさんの修繕の得意っぷりに衝撃を受けたわあ。見た目に反して手先が器用過ぎで、あらゆるものを直していく! 止まってたエレベーターまで直したぞ!

 偽娘は学校に通い始めるも、いじめられて同級生をぶん殴る! さすがは戦地をくぐり抜けてきただけある。なかなか骨があってよろしい! と思ったら、先生に怒られました。そして全然言葉が通じないのに学校に呼び出される偽両親……。
 偽妻は団地の別棟に住んでる男のところにヘルパーとしていくことになるが、意外にも地元スリランカの料理を褒められて結構うまくいったりする。しかし、ここは実はギャングの家で、溜まり場兼会議室のようになっていて、不穏な空気が……。

 他人同士だからなかなかうまくいかなかった偽家族だが、じょじょに軋轢を乗り越えて打ち解けてくるのだが、そこに大きな危機が迫る。ディーパンさんは同じくフランスに逃れてきた元同志に、未だ続くスリランカの内戦に協力せよと言われるが、葛藤しつつもきっぱり断ってしまう。自分にとってはもう終わった戦争だ、と……。だが逃げた先、フランスの一地方にも、かつての内戦が追いかけてくると同時に、その地方ならではの「戦争」が勃発する。ようやく見つけた小さな平和をぶち壊す、ギャング達の争いだ。
 難民の視点からすると、本当につまらなく、本当にうんざりするような争いなのだろう。自分の管理する棟と、ギャングの住む棟の間に白線を引くディーパン。

 クライマックスは邦題通りの「戦い」に。しかし、せっかくの大アクションなのに、相変わらずカメラが近いな! MMAの攻防がアップにしすぎでよく見えなかった前作『君と歩く世界』を思い出しましたね。
 終盤の演出が、なんだか夢の中にいるようで、実際に頭を撃たれたようなカットもあったりするので、ラストなんかは本当に現実なのかと思っちゃうね。シリアスなテーマと裏腹に、そんなぼやけた感じの絵と演出も心地よい映画でありました。
chateaudif.hatenadiary.com

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