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”どこまでも転がり落ちて”『The kids』


映画『The Kids』予告編

 アジアン映画祭三本目!

 恋に落ち、女の子を授かったバオリーとジアジア。高校を退学し結婚した二人だが、現実は厳しく、生活は思うに任せない。バイト先の店長と不倫を始めたジアジアのことも知らず、ギャンブル狂の母親の借金に追い詰められていくバオリーは……。

 密かに想いを寄せていた先輩が、同級生に水をぶっかけられていびられているのを見てしまった主人公17歳。彼女を助けて……子供ができました! 大変な状況が至極あっさりと始まってしまうこの映画。一応、ちょいちょいと時系列を遡って、二人が若くして結婚するまでの話も描くのだが、それはもう単なる前提でしかなく、この先、いったいどうなってしまうのか、が話の主軸。

 高校を中退して弁当屋で働き、家では自分の母親と妻子が同居。妻はカフェで働いているのだが、そこの店長とW不倫中。このヒロイン、母親がおらず継母と実父にいじめられて暮らしていて、代わりに「誰かに守ってほしい」オーラを放っていて、高校でもそれにハマる男が後を絶たない状態。主人公が一発必中してしまった結果、高校最後の男となったものの、貧乏暇なし、育児疲れ、プライバシーなしの生活に……。乳児の面倒は母親が見てくれるので共働き……だが、「守ってほしい」依存体質は変わらず、あっさりと主人公より金も地位も持ってる店長に身をまかせる……。

 ……いやあ……報われないな……。買い出しと偽って昼間はホテルにしけこんでいた店長&ヒロイン。弁当屋の仕事が終わった後、迎えに来る主人公は当然何も気づいていない! 家に帰っても母親がいて邪魔なのでアパートの階段で迫るが、当然拒まれる。
 ほぼ雑魚寝状態の現状を打破しようと、以前バイトしていた雑貨屋さんの口利きで新しい部屋を借りようと計画中。甲斐性を見せてまあまあ生活が軌道に乗れば、不倫状態もどうにかなってくるんじゃないか、と淡い希望を抱いたのも束の間、ギャンブル狂いの母親が引っ越し貯金に手をつけ、麻雀でドン! はい借金!

 まだ映画は序盤なんだけど、もう詰んだ感がひしひしと漂ってくる。大ショックでやる気をなくし、弁当屋の仕事にも大遅刻して店長に怒鳴られる主人公。もうダメだ……。が、従業員のおばちゃんと共に窮状を察した店長、帰り際に給料を前払いしてくれるのであった……いい人すぎるだろ……。
 この店長、最初の登場シーンではおばちゃんと夫婦かな?と思ったのだが、給料のシーンで主人公と差し向かいになると意外に若い。40歳ぐらいか。彼にも離婚の過去があり、昔の子供のおもちゃをくれたりして、ほんまにええ人や……。
 雑貨屋の人たちも親切だし、周囲には助けてくれる人もいるのである。が、基本的に焼け石に水で、まあなんとかその月の家賃は払えたものの借金はあるし、大ピンチに変わりなし。次の一手は、高校の同級生のつてで、麻薬を売りさばくことだ……って、完全に転落コースだよ!

 とにかく、まったく救いのない話で、まさに不幸のつるべ打ち。台湾の社会問題としてと言うよりは、若年層の誰にでも起こりうる普遍的な物語としたい意図がうかがえる。
 まあ母親のギャンブル狂いさえなければ、かつかつでももうちょっとなんとかなっていたのでは……。「私だって、負けたくて負けたわけじゃないんだよ!」って、そりゃあそうだろ……。

 17歳にして父親となった彼がひたすら可哀想な話なのだが、ヒロインの方はヒロインの方で、不倫相手の店長の妻の友達から、子供を里親に出さないかと持ちかけられる。最初は婉曲に「シングルマザーを援助したい」と言われ、何のことかよくわかっていないのだが、まあ突き詰めると「生活苦しいだろうし、赤ん坊を買い取るよ」ということなのだな。誰にも相談できず、貧乏ゆえにそれに乗せられてしまいそうになるヒロインの孤独……。
 いや、人間的に何かこのヒロインに共感できるかというとそれはしがたいのだが、大人という大人が彼女を「肉体」や「子持ち」という資源的な面でしか見ていないという事実に戦慄させられる。君だけが大切だと言いながら、都合のいい不倫相手としか思ってない店長に、貧困につけ込んで金で子供を手に入れようとする女。どちらも大して悪意はなく、まさに「援助」と思ってそうなところが怖い。
 姑も「わけのわからない嫁がきた」ぐらいにしか思ってないし、どこにも頼れない。終盤に至って、唯一子供の父親だけが、自分たちのことを真剣に考えてくれている人なのではないか、と遅まきながら気づいたのであろうか、というあたりが物悲しい。

 主人公は父親不在でモデルケースがなく、母親はギャンブル狂。ヒロインは母親不在でモデルケースがなく、父親は暴力男である、というのが背景になっていて、まあ親がしっかりしとらんと子供世代にもろにツケが回ってくるのだな。
 と言いつつ、原因はこれ、世の中はここが歪んでる、とは、はっきり示さず、善意悪意がないまぜになった複雑なものとして描いた繊細な筆致が印象的で、シンプルながらまだ奥行きがあると思わせる映画。

 これはこれでまた一つの「台湾の青春映画」なのだな……。これも劇場公開決まってますので、お見逃しなく!
chateaudif.hatenadiary.com

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