”5秒待ってくれる人”『欠けてる一族』


『欠けてる一族/THE MISSING PIECE [缺角一族]』 予告編 Trailer

 アジアン映画祭二本目!

 人からの質問に5秒経たないと答えられない大学生のタオフォン。それを克服しようと村でヒッチハイクするうちに、檳榔売りのシャーシャーを始めとする人々と出会う。彼らはそれぞれに欠けたものを持ち、それでも生きていた……。

 始まってすぐの絵面と雰囲気からして、これって『かもめ食堂』とか『めがね』みたいな、「わかるやつにはこの良さがわかるよ」という、雰囲気ばかりの鼻持ちならない映画なんじゃないかと危惧。特にこのコスプレが怪しい……。が、現地の檳榔(タバコ)売りの女の子は、みんなこんな格好してるのね。

 主人公は受け答えするのに必ず5秒かかる奇病?にかかっていて、それを治すためにわざわざヒッチハイクをして色々な人と触れあおうとしている。檳榔売りの女、街宣車の婆さん、道路工事の男、一人暮らしの爺さんと出会い、そこに居着くことに。
 会話シーンでほんとに5秒待つから、見てるこっちは割合イライラしてきて、「5秒待ってくれる人がいい人」みたいに抜かすので、やっぱり鼻持ちならんやつか、と思ったが、登場人物一人一人の過去が少しずつ明かされるに連れて、段々と好感度も上がってきたのでちょっとほっとしました。

 一人一人が過去に何かを失っていて、それを総称して「欠けてる一族」と呼ぶわけだが、話したり共に過ごすうちに互いの存在に勇気付けられ、少しずつ過去を忘れたり整理したり思い切ったりすることができるようになる、というあたり、実に直球のいい話で、最初に心配したような代物ではなかった。
 まあそうは言っても、いかにもフリーハグとか信じてそうな奴が作った話だな、とは思いましたが。

 檳榔売り含め、台湾の海辺の田舎町の風景が本当に素晴らしくて、実にのんびりしますね。このロケーションの非常に開かれたウェルカムな雰囲気もよくて、お話をこじんまりとした閉鎖的なものにさせない。

 ヒロインのエラ・チェンも若干きつめでスタイルのいい田中麗奈という感じで、主題歌もやってて良かったですね。彼女のエピソードが、妊娠発覚直後に恋人が「檳榔買ってくるよ」と言い残して、自分を捨てて逃げてしまったというお話。子供を流産した後、自分で檳榔売りをやりながら彼の帰りを待ち続けている……って、どう考えても最低男だし、待っても無駄でしょ! でもなかなか割り切れないでいるうちに、5秒かかる頼りない男と出会う……。
 なんだかんだで恋愛っぽい雰囲気になるんだけど、間違いなく童貞だし全然煮え切らず、時に人助けを優先してしまう男……だけど、まあいいじゃないか、それで! ゲス男より全然いいじゃん! 自分で引っ張ってけばそれでいいよ! 爺さんが5秒男に言った「年上の女房はいいぞ」みたいな台詞を思い出しつつ、エンディングの突き抜けた幸福感が胸に残る。台湾の海沿いの景色、自分で歌ってる主題歌……! この映画の集大成になっているラストシーンだ。


ELLA [ 差一點 Almost ] Official Music Video ( 電影「缺角一族」主題曲)

 まああまり期待せず、時間合うから観ようと思った一本でしたが、なかなか良かったです。

差一點

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