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”僕は駒だから”『殺されたミンジュ』

映画


映画「殺されたミンジュ」予告編

 キム・ギドク監督作!

 一年前、ミンジュという女子高生が複数の男によって殺害された。事件は闇に葬られたが、今になって、直接手を下した男たちが次々と拉致され、監禁される。拷問と執拗な尋問に怯え、その時のことを自白していく実行犯たちだが……。

 ミンジュという少女の殺害に関わった複数工作員たち、その命令を下した管理職、さらにその上のお偉方が、一人ずつ監禁され、そのことを自白させられていく。監禁するのはいつも同じメンバー。中年の男をリーダーに、複数の男と一人の女。ある時は過激派、ある時はヤクザ者、ある時は情報局風を装って……。

 まあ見ていればわかるのだが、この犯人集団は別に何者でもなく、単に変装しているだけの一般人の集まりなのである。その時々に合わせて衣装を用意し、顔を隠して標的を拷問する。この辺り、コントのような様相を呈し、逆『レッド・ファミリー』のような趣。特殊工作員が一般人を装う逆で、ただのパンピー筋者を演じている。

 格差が拡大しているのは韓国社会も同じなわけだが、メンバー一人一人がそれぞれの事情を抱えている。借金、認知症の親、横暴な恋人……。そして、それを束ねるリーダーが、冒頭で殺された少女ミンジュと深い関わりを持っているのが匂わされる。一人だけ執着の度合いが違い、他のメンバーとも温度差が生まれてくる。
 が、映画の眼目はそこを解き明かしていくことではない。少女ミンジュは殺されたが、その裏事情が明かされることはない。国家権力がなぜ結託して子供一人を惨殺しなければならなかったのかは、自白という形で明かされるが、それらは観客には見せられない。物語はそのさらに奥に迫ろうとする。権力、システムを使う側と使われる側、水槽の中の雷魚とドジョウ……。当初は犯人一人一人の良心に迫る話かと思ったが、その良心さえ食い潰すものが見えてくる。

 ミンジュは「民主」の意味だそうで、それが殺された後の世界では人は固定された格差という水槽の中で、追う雷魚か追われるドジョウになるかあらかじめ設定されている。主人公たちチームは一人一人がドジョウの側で、日常生活では搾取されるばかりだ。それぞれの面子をいじめる人を同じ役者がやってたりして、すごいわかりやすい風刺だ……。唯一、リーダーだけは日常でいじめられてないけれど、彼も『ミッドナイトFM』に出た時の英雄的活躍をしたにも関わらず、キモオタだからひどい扱いを受けた時のことを思い浮かべたらいいかもしれないですね。

chateaudif.hatenadiary.com

 『レッド・ファミリー』と同じく、設定が面白いのは最初だけで、そのギャグがエスカレートするのではなく、段々とすべって、飽きられて、いたたまれなくなっていく過程を描くあたりがまた残酷ですね。

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 暴力描写と独特の作風の迫力は健在だが、『ピエタ』『メビウス』と比べると一枚落ちるかな……という印象。単純に、監督の最も興味を持っている対象、恐怖の対象でもある「性」を描いた映画ではないからかもしれない。

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弓(字幕版)

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