”童貞は死なないけれど”『イット・フォローズ』(ネタバレ)
話題のホラー映画!
新しい彼氏と彼の車の中で関係を持ったジェイ。余韻を楽しんでいたところ、彼は突如豹変し、彼女に麻酔薬を盛って車椅子に縛りつける。「あれが見えるか? お前を追ってくる、どこまでも……!」 それ以来、ジェイは「それ」に常に追われるようになる。逃れる方法は、誰かとセックスして感染させること。だが、その相手が死ねば、再び標的は自分となる……!
数々のホラー映画がバンバンソフトにスルーされる中、突然ぽろっと劇場公開される映画があって、今作は全米でヒットしたとのこと。
「それ」……自分にしか見えない。普通の人間にはありえない怪力。必ず歩いて追ってくる。姿は様々な人間に変わるが、身内が多い。セックスをすればその相手を追いかけるようになる。そうして人に移せるが、その相手が殺されるとまた自分が狙われる。
VFXも少なく、アイディアと創意工夫で勝負した低予算ホラー。駆け足で設定を説明し、その後は「それ」との攻防を中心に描く。主人公は一介の女子高生なので、それを倒せるような武器や技術はない一般人である。
POVでこそないが一種の体感型ホラーで、自分がこれに感染しちゃったらどうしようか、どう対策するかを考えながら見ることに。とりあえず、相手は歩きしかないので、車で移動して距離を稼ぐのが消極的ながら効果的。もっと距離を伸ばして海外まで出るという手もあるのだろうが、透明だから船や飛行機にもぐりこんでくるかもなあ。そこらへん、主人公らはティーンなので、結局そう遠くへは行けず、廃墟となっているラスベガスの周辺だけで話は進む。
幼馴染や友達が何人かいて、主人公をフォローしてくれることに。最初は半信半疑なのだが、本人以外には見えないとはいえ、透明な何かが襲ってくる現象に直面することで事態の重大さを悟る。冒頭のセックスでうつしてきた相手を探すのだが、この言わば「元凶」を見つけても事態が何も解決しないという設定がユニーク。この男が殺されるのは、自分が殺された後でしかない。結局、うつってしまったものは仕方がないということで、「前向き」な解決法を探さざるをえなくなる。
結局、かつてセックスしたことのある友人の一人とまたセックスしたり、行きずりの男たちに数人まとめて許してみたりするのだが、すべては抜本的な解決にはならない。程なく彼らは殺され、数日の安息を経てまた「それ」が迫ってくることになる。映像では見せないが、ボート遊びしている三人の男に下着になってせまって多分三人ともにヤられた……と匂わせるシーン、あれは多分、その中の最初の一人にだけうつって、そいつだけが殺されたらまた戻ってきてしまった、ということじゃないかな。あまり乱交は効率的でないということ。
さて、友人の一人であるチャラ男とセックスし、結局彼は殺されてしまうのだが、ここでうつした後も、「それ」が見えるままであることが示される。うつせば「見えるけど直接は狙われない」という状態になるので、これを利用して協力体制を敷けば、監視がしやすくなるんじゃないかな?
友人の中に、主人公を心配する男……まあ平たく言うと童貞君がいる。とっくに処女ではない主人公の恋愛対象にはまったく入っていない、ただの幼なじみポジション。でも彼女が好き……。主人公はなぜチャラ男とセックスしたかと聞かれ、「前もしたことあったから……」と答えて童貞君を絶句させる。「見える」のは主人公だけなので、映画は彼女の目線に固定だが、お話上は童貞君が急激に主役としての存在感を増してくる。君を愛してる、と言っても全然相手にされていないが、「それ」を撃退するため、クライマックスは彼の執念の秘策が発動する。基本、淡々と描かれてるので劇的な感じはしないけれど、この作戦を考えるのに、相当知恵を絞ったのだろうなあ……作戦自体は成功したとは言い難かったが。
チャラ男は、実際に「それ」が彼女を襲う場面を見ているにも関わらず、いまいち危機感がなく、母親の姿に変わった「それ」にレイプされ惨殺される憂き目に遭う。
こうやって起こっていることだけ単に書き連ねると、ヤリチンは殺されヤリマンはひどい目に遭い続けるメシウマ映画に思えないでもない。……が、そうではない。童貞君はそんなことを決して望んでいるわけではない。
MJがフラフラと金持ち男とばかり付き合っても、密かに愛し続けているピーター・パーカーを思い出した。ホラー映画において、「童貞は殺されない」というルールがあるわけだが、「それ」を辛うじて撃退した後、童貞君は主人公と結ばれ童貞でなくなる。二つの安全な立場を同時に投げ捨て、狙われるかもしれない立場に自ら立つわけだ。
「それ」が何であるかは作中では明言されないのだが、性的関係を抑圧しようとする何かであることは匂わされる。無軌道なセックスしたものへ罰を与えようとするかのような……。言い換えれば、それを防ごうと思うならば、無軌道ではなくセックスに伴う責任を理解し、愛ある関係を築くことが必要なのだ、ということであろうか。あるいは「過去」とも解釈できるかもしれない。パートナーには過去の性的関係が必ずあって、直接的でなくても必ずその人の人生に影響を及ぼしている。新たな関係には必ずそれが立ちはだかる。
ラストは曇天の中、手をつないで歩く二人で締められる。背後を歩く人影は甦った「それ」なのか? 不安を残したまま映画は終わる。二人に笑顔はなく、元童貞君にも喜びの表情はなかった。通り道に娼婦を見かけた彼の悩ましい視線が印象的だ。うつしてしまえば楽になれる……。
それでも、それだけのリスクを背負っても性的関係、パートナーとしての関係を選ぶ。それこそが「愛」である……ということで、また『スパイダーマン2』のラストにおける二人の選択を思い出すのである。
いやあ、すごい童貞映画だった。この監督はこじらせずに童貞マインドを持ち続けた、サム・ライミと同類だね。しかしチャラ男君があまりに役に立たずに描かれているので、女性に対しては「チャラ男はいざという時役立ちませんよ! あなたを愛してくれる童貞とリスクを分かち合う方がいいですよ!」という、いささか手前味噌なメッセージを発しているように取れなくもないが……。
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