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”聴こえるんだよ、聴こえないのかよ”『完全なるチェックメイト』


トビー・マグワイア主演 映画『完全なるチェックメイト』予告編

 トビー・マグワイア主演作!

 若干15歳にしてグランドマスターとなった天才チェス・プレイヤー、ボビー・フィッシャー。米ソ冷戦の只中である1972年、アメリカの威信を賭けて、34年間チャンプに君臨するロシアに挑むことになる。彼の前に立ちはだかるのは、かつて敗れたもう一人の天才、ボリス・スパスキー……。

 『ボビー・フィッシャーを探して』などでも有名な、天才的チェス・プレイヤーであるボビー・フィッシャーを描いた実話。

 精神を病んだ天才役を、トビー・マグワイアがまた目をギョロギョロさせて演じる。チェスの勝利に子供の頃から異様に執着し続けた偏執的な男で、「公正な勝負」のために傲慢な要求を続ける人格破綻者。自信に溢れているというのではなく、空気をそもそも読まないキャラ。これをトビーがずっと黒いスパイダーマン演技で通し続ける。
 でもまた童貞キャラという……ヒロインに当たる人間は出てこず、童貞を捨てる相手は娼婦で一夜限りの関係なので、単にコミュニケーションに問題があるという表現だが。

 映画は冷戦時代の異様な熱狂を切り取り、この強烈なキャラクターが時代の寵児となっていく過程を描く。いかにもマネジメントしづらい変人に、同じチェスプレイヤーだったからなんとか操縦できるだろ、という理由でピーター・サースガートが付けられるも、一大会、一試合ごとにバタバタバタバタ……。
 描写はやがて「偏屈な人」ではくくれなくなり、常に盗聴を恐れ雑音を気にし続ける統合失調症を思わせる重篤さにスケールアップしていく。盗聴されている! ユダヤの陰謀だ! 奴らは世界中にいる! そんな事を言っている彼自身がユダヤ系なわけだが………。

 そんな中、ロシアのチェス・チャンピオンであるリーヴ・シュライバーに完敗。この人、同じ天才プレイヤーながら、負けてはイチャモンをつけてくるボビー・フィッシャーに対して泰然と構え、なかなかの人格者。チャンピオンかくあるべしという風格を漂わせる。これは大きな壁だな……。
 ……と思ってたら、再度巡ってきた頂上決戦では、逆に追い込まれたリーヴ・シュライバーが、「椅子から雑音がっ!」と言い出し、実はこの人も同じ妄想に囚われていたことが判明。チェスをトップレベルで続けていたら、みんなこうなってしまうのか?

 しかしいくらおかしくなっても、そんな内幕を知らないファンは一向に気にしないわけで、ロシア打倒の英雄としての期待が一気に高まっていく。数年前のオリンピックの浅田真央vsキム・ヨナを思い出したが、真央ちゃんもこんな感じで神経を病んでいなければ何よりである。
 負けが込むと「カメラを止めろ!」「会場は卓球室に変更!」とか言い出すが、白星が先行すると元の会場に戻したりする展開もあって、どこまで本当に病気なのか、というところもあり。

 絵的な盛り上がりには若干欠けるし、「神の一手」の何がすごいかというとよくわからない。まああまりゴチャゴチャ説明されても結局わからんのだが……。
 ラストは狂気に取り憑かれたまま栄光を捨てて彷徨った、みたいな締め方をされている。アメリカから見れば「英雄になり損ねて去った男」かもしれないが、しかし本人は割合幸せだったんじゃないかね? wiki見たらその言動を最後までぶれさせずに、厄介者扱いされながらも長生きしている。映画としては面白かったが、本人からしたら心外というか、何がわかるの、というものかもしれないね……。

完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯 (文春文庫)

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ボビー・フィッシャーを探して (字幕版)

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ボビー・フィッシャー 世界と闘った男 [DVD]

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