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”お願い、諦めないで”『白い沈黙』

映画


 アトム・エゴヤン監督作。


 スケート選手を目指す娘キャスの練習の帰り、父マシューは彼女を車に残して、ほんの数分、買い物に出た。娘が彼の前から消えてしまうことも知らず……。誘拐だと言うマシューに、刑事たちは疑いの目を向け、妻までが彼を非難する。そして8年の歳月が流れ、マシューは未だに娘を探し続けていたのだが……。


 いやあ、びっくりしたな。幼い娘が誘拐される、という話というのは予告で知っていたが、オープニングカットから、その娘が成長して生きてるのと犯人をずばり見せてしまうんだからな。誘拐犯役はケビン・デュランド、『バイオハザードV』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120927/1348741324)のバリー役や、『フルートベール駅で』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140407/1396861634)の横暴な警官役……とマッチョが多かったのだが、今作ではインテリ系変態だ!


 物語はライアン・レイノルズお父さんが幼い娘を誘拐された8年前、手を尽くすも手がかりがつかめなかった2年前、担当刑事までが誘拐された現在の三軸で時間軸が進行。おいおい、ややこしいな、と思うのだが、この時系列の入れ替え、ばらしっぷりが肝で、犯人はわかってるんだけどこれで興味を持続させる。こう書くと小手先のトリックのようだが、同時にキャラクターの心理もしっかり描き、頑迷に娘を探し続ける父と、事態に翻弄され続ける母のすれ違いを浮き彫りにしていく。


 ちょっと目を離した隙に娘をさらわれ、自分で娘を売り渡したんじゃないか、とまで言われるライアン・レイノルズお父さんが気の毒なキャラ。何で目を離したの、と妻にも言われて、自分で自分を責め、心ない転属したての刑事スコット・スピードマンさんからは犯人扱い。自分で娘を探し出そうとするけど、できるのは貼り紙を貼ることぐらい。その日から一歩も抜け出せず時が止まったままでいる。
 夫婦関係は破綻し、時々電話はしているしその会話ではお互いを労り合うのだが、顔を合わせるともうダメ。妻のミレイユ・イーノス、ロザリオ・ドーソン刑事に会い、「会うとどうしても夫を罵倒してしまう」とやつれ切った顔で告げる。彼女自身も苦しんでいるのだが、どうしようもできない。それでも8年が経つころには少しずつ良くなってきている。が、ちょうどその頃を狙うかのように、彼女の職場のホテルに、娘の思い出の品が次々と姿を現すように……!


 犯人側の目線も多く入っているのだが、その内実はなかなか明かされない。児童の売買、ポルノ撮影を巧妙かつ大規模にやっていて、かつて誘拐された子も成長してその構成員になるという負の連鎖があることも示される。警察はその商売の一端はつかんでいるが、末端の変質者を捕まえても深奥には迫れていない。
 犯人ケビン・デュランドの、監禁した少女の人生を物語として楽しむ文系変態趣味の捉えどころのなさと合わせて、つかみようのない不気味さの前で足掻いているような感覚を覚える。刑事たちも、両親も、あがき続ける無力さを噛み締める……。


 暖簾に腕押しのような展開が続く。やがて生まれる危機感は、娘はまだ生きているのが観客にはわかっているというのに、8年も経ってそろそろもう両親や警察が諦めてしまうのではないか、というものだ。手がかりも何もなく、苛立ってお互いを責め合うその姿は、およそ「建設的」ではない。いつか両親は「前向きに」人生を「進む」ことを選択してしまうのではないかという恐怖。捕らえられている娘の視点からは、まさにその恐怖がほの見える。
 しかし、犯人にしてみても、両親の苦悩を覗き見ることを変態趣味として楽しんでいるので、きれいに忘れられても困るのだな。ゆえに情報を小出しにして彼らをいたぶり続ける。そしてそのやり過ぎこそが陥穽を生み、自らを滅ぼすことになるのだが……。これはあくまでフィクションの落とし所であり、実際は疲弊しきった挙句に諦めてしまい、奪った者たちはのうのうと生き続けるのだろう。そこのところは、結局組織自体を挙げることはできないあたりにも示唆されている。


 警察が信用できず自分で娘を探すライアン・レイノルズお父さんと、彼こそが犯人ではと疑うスコット・スピードマン刑事の関係は、ちょっと『プリズナーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140513/1399992410)にも似てますね。『デビルズ・ノット』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141124/1416833873)は不発だったエゴヤンだけど、このスタイルは断然フィクションの方が生きるな。サスペンスフルな手腕を堪能しましたよ。

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