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”次代を生きる君たちへ”『カンフー・ジャングル』


 ドニー・イヤー、劇場公開は今年5本目!


 かつて警察の武術教官であったハーハウ・モウ。だが、武術の試合の最中、誤って対戦相手を殺害。自首し服役していた。収監されて三年目、香港で武術家が殺される事件が起きる。ハーハウはこれからも事件が続くことを予見し、手がかりを知る自分を釈放するように求めるのだが……。


スペシャルID』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150307/1425704810
アイスマン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150321/1426858515
『モンキー・マジック』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150606/1433580839
『ドラゴン危機一発'97』


 残念ながら『ドラゴン危機一発'97』の限定公開には行けなかったが、今作はシネコンで公開ということで実にめでたいですね。MMAアクション三部作を完結させ、CGを多用したファンタジーなどにも進出していたドニー・イェン、ひさびさに王道のカンフーものに復帰しました。


 香港で、カンフーの達人が素手で殺される事件が起き、刑務所に収監されているドニーさんが、犯人もカンフーの使い手と喝破する。自らも達人であるドニーさんは、かつて試合で相手を殺してしまい、自首して罪に服していたのだった……。
 猟奇殺人が起き、手がかりと助言を同じ猟奇殺人者に求める、というと『羊たちの沈黙』などでもおなじみのプロット。これは、微妙なミステリ要素が含まれた『捜査官X』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120326/1332734955)に続く、カンフー・ミーツ・サイコスリラーとも言うべき映画なのだ!
 事件の謎を警察に伝えようとするドニーさんだが、刑務官に相手にされない。仕方なく、他の囚人を殴って大乱闘を起こす! まだ映画が始まってばかりでドニーさんのキャラがつかめていないので、仕方なくじゃなくて、ほんとにケンカしたかったんじゃないの、といつもの暴力刑事キャライメージで疑ってしまうのだが……。


 一見、接点のないように見える連続殺人の被害者たちをつなぐ「ミッシング・リンク」がカンフーであり、最初に殺された男は拳術の達人。このあとは蹴り、禽拿術、武器、外功と内功の使い手が順番に狙われるに違いない、と推理するドニーさん。相棒役を務めるのはチャーリー・ヤン刑事。この人も見るの久しぶりだな……。ドニーさんとは『セブンソード』で共演済み。
 一人狙われるごとにカンフーアクションの見せ場が投入され、しかもひとつひとつ違うスタイル。猟奇殺人ならば殺しざまが注目ポイントになるように、犯人役のワン・バオチャンが次々と達人を打ち破っていく様が描かれる。
 ドニーさんは達人たちと面識があるので、犯人より先んじて回ろうとするのだが、3年ムショ入りしてる間に浦島太郎になっていて、達人のはずの人が怪我して弟子に跡を継がせていたりして空振りを連発!
 ファイトシーンはどれも面白いのだが、四人目の武器の達人にしてアクション・スターのルイス・ファンとの戦いの際、周囲で撮影してたスタッフがあっという間に逃げ出し、バイクスタントの人たちも乗ったまま逃走して周囲に誰もいなくなるあたりの強引さが、いかにもカンフーファイトのために存在している香港映画という感じで素晴らしかったですね。


 残る達人は功の使い手ただ一人、それは一体誰……?



 この辺りの謎解き、実はドニーさんは名探偵でも何でもなく、筋書きをあらかじめ知っていたのだ……ということが明らかになり、ミステリ的な純度は随分薄れた……(笑)。ここはあまり面白くなかったな。こんな示し合わせてなくても、「達人」同士、図らずも通じ合ってしまった、という風にした方がテーマ的にも座りが良かったかもしれない。
 ただ物語としては、カンフー対決で「強さ」を追求し続けてきたドニーさんがついに人を殺めてしまったのと、同じく関羽の関所破りの如き試練を自らに与えて強さを求めるバオチャンの共通点が描かれる一方で、それぞれ違った道を選ぶ差異が強調される。


 MMAネタから離れてひさびさのカンフーへの回帰ということで、こうして改めて見ると、ごまかしが効かなくなっている分、『イップ・マン 序章』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110424/1303616111)あたりと比べてもやっぱり切れは少々落ちているな……。特に悪役のワン・バオチャンが本格派なので、余計にスピードに差がついて見える。しかしながらやっぱり切れ以上に手練の滑らかさ、型の美しさがあるので、画面上での説得力は桁違い。これが本格派のすごみだわ……。


 必ずしもカンフーの達人とは限らない役で往年のスターが続々登場。何でもない役の人がドンと大写しになったりするのはご愛嬌。観ている間に気づいたのは三分の一ぐらいだったか? 『桃さんのしあわせ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121212/1355307924)以来のレイモンド・チョウも!


 「最後の本格派」の衰えと、後進の育成宣言(この辺りは『イップ・マン3』でも描かれるテーマか?)。そして懐かしの名役者たちの勢揃いは、懐かしさを覚える一方で、もう二度とあんな時代は来るまいという寂しさも覚える。ジャンルの衰退と高齢化の中、ワン・バオチャンやゲスト出演のデレク・クォック監督など若手も出てきているのだが、新たなスターの登場は、まだ先かな。


 ジェット・リーが最後の武術映画として『SPIRIT』を作り、強さのみを追求し続けることの愚かしさを描いたのと同様に、ドニー・イェンもまた暴走刑事役を卒業し自己顕示欲を封印して一切脱がず、自分の強さを求めるのではなく次代に伝えていくことを選んだ。
 今年、『ドラゴン危機一発'97』がデジタルリマスター、リバイバル上映されたが、かの作品においても、戦い続けた挙句に全てを失い、修羅の道を歩むしかなくなった男の行方が描かれていた。今作では明確にそれと違う道を選ぶ姿が示され、戦いを終えた男の枯れた姿が描かれる。ドニーさんの映画人生の集大成的な作品であり、『SPIRIT』であり『ロッキー・ザ・ファイナル』であるとも言える。まあそれでもラストバトルにはしっかり勝ってしまうあたりが、やっぱり枯れ切らないドニーさんであったな……。


 しかし、この役、いったい何歳の設定なんだろうな……。実年齢通りだとすると、ラストの20年後の写真では72歳になっているはずだから、やっぱり20歳ぐらいサバを読んでいるのであろう。暴力刑事は卒業、脱ぐのもやめましたが、ここだけは譲れないんだ!というオチでした。

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