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”私は巨人を許さない”『進撃の巨人 前編 ATACK ON TITAN』『進撃の巨人 後編 エンド・オブ・ザ・ワールド』(ネタバレ)


 人気漫画の映画化!


 巨人たちによって文明が崩壊し、人類は壁の中に逃れた……。だが、100年に渡る平穏は、壁を越える超大型巨人によって破られる。生まれ故郷と幼なじみのミカサを巨人に奪われたエレンは、復讐のために調査団に入るのだが……。


 前後編まとめての感想。「前編に対して後編は……」と言いたいのも、まあ金払ってるんだからわかるが、当初構想は一本の映画で、脚本もそのように書かれていたのだから、あまり分けて論じる意味を感じない。三時間ぐらいの一本の映画として、前後編合わせて考えた方が手っ取り早いんじゃないか。


 原作は一通り読んで、アニメ版は飛び飛びで観てるぐらい。ちょいちょいと設定を変えて……と言うか、主人公他の人物名や設定が形骸のように残っているが、これだったら丸ごと違う設定にすればいいのに、という内容に。
 しかし、軍艦島でロケするために舞台を日本にした、日本人でキャストを固めるために登場人物も日本名にした、って、そんな必要あるのかな……。どうせ原作は漫画で実在のモデルがあるわけでもないのだから、もう少しうやむやにして、架空の世界ですよ、ということにすればいいんではなかろうか。


 主人公たちが「調査兵団」というプロ集団の志願者ではなく、単なる作業員であるという風に設定が変更されているのだが、それならばなぜ立体機動なんていうアクロバティックな高等技術に手を染めるのかがよくわからなくなっている。『フルメタル・ジャケット』的な訓練とセットになっている明らかに戦闘向けの技術をなぜ作業員に習得させているのか。そもそも作中のエレンたちはどの程度それに習熟しているのか。だいたい巨人と戦闘する必要はあるのか……。
 そのあたりの設定がまるで詰められていないので、原作者が知恵を絞って、必死に登場人物たちにプロフェッショナル感を付与しようとしていたのをぶち壊すかのように、ひたすら烏合の衆。立体機動は特撮の出来云々以前に、必然性のないアクションのためのアクションでしかない。原作と変えた部分が機能せず、半端に色気出して原作の要素を残した部分とまったくマッチングしていない……。


 またドラマパートのテンポが異常に悪く、いざ特撮シーンというところへのつなぎのもたつきぶりがすごい。上官が不意に食われるシーンも、唐突であるだけでまったくびっくりしないから、3秒ぐらい経ってから逆に驚いたわ。
 大声を出すと巨人が引き寄せられてくる、という設定も語られるが、主人公が平気で大声出してたり、別に出さなくても襲われたりで、まったくサスペンスに生かされていない。主人公がヒーロー然としていない臆病な人間なのはいいとして、単に賢くないように見えるのがな……。無駄なエロシーンと合わせて、ジェイソンのような怪物に追い掛け回されるバカな学生を主人公にしたスラッシャーみたいな感覚になっているが、まさかそれを狙ったわけではあるまいな……。
 その一方でサシャやハンジのキャラクターなど、中途半端にギャグが残っているせいか、非常に寒々しく感じられる。双方ともシリアスで才能に溢れる一面を多分に持ち合わせているキャラクターであったのに、表面的にエキセントリックな部分だけなぞられてもな……。


 お話としては、運命の歯車が狂って、ミカサがあそこまでエレンにベッタリじゃない道を進んでいたら、というIFストーリーとして見れば面白いのではないか、とちょっと思ったが、チョビヒゲのチャラ男にファックされてるとかありえないだろ。リヴァイならば、冷静で有能でちょっと危うい部下の一人に収まっていただろうに。
 映画オリジナルのシキシマというキャラクターが、今回のキーパーソンとして「リヴァイ」の強さと「エルヴィン」の指導力とカリスマ性を併せ持ち、それが実は危険な方向に暴走している、というキャラクターに設定されていたものと思う。なおかつそれが実は「鎧の巨人」なんだからもう手に負えねえ〜!というな……。しかし、原作においてエルヴィンが「王政」と対置されているのに合わせて、保守的な支配者層に対するシキシマ……なんだが、やっぱり出た瞬間からあの大仰なチャラい演技されては、何かマジに物事を考えているように見えないのだな。良くてジョーカー的ポジションに止まってしまう。


 後半のエレン巨人覚醒以降、やたらと場面転換が多くなるので、後半は脚本上は相当ギアが上がっていたはず。キャラクターが死んだ!と思ったら生きていた!実は巨人だった!という展開が、少々見え見えながらも連発される。後から考えると、なんかおかしくない?強引じゃない?と思うのだけれども、観ている間は突っ込む間もなく次の展開に突入する。脚本のマッチーはラジオで「マッドマックスを目指した!」と発言していたが、お話上は見せ場てんこ盛りで一気呵成に急展開して凄い勢いでテーマを語り切って終わるように設計されていたのだろう。演出がもたつくせいで非常にもっさりして見えるが……。


 シキシマがその正体を見せ巨人化したシーンで、ミカサがついに彼に見切りをつけ、あのマフラーを巻いてエレンのところに戻る……というシーンは、もうちょっと台詞なしで構成してれば結構グッとくるいいシーンだったのではないかなあ。マッチーの「頑張れば、カミさんはまた俺のところに帰ってきてくれるんだよ!」という成功体験が反映されているのは間違いないところで、やっぱりそういう作り手の生の声や実感がこもっているところは面白くなる。上っ面だけ付け加えたようなエロシーンはやはりダメなのだ。


 ラストは超大型巨人との決戦を経て、壁を乗り越えて終わる……のだけど、その後の海の見せ方のひどさにちょっとびっくりしてしまったなあ。まず鳥、ちらっと海を一瞬だけ見せてから、驚いてるエレンたちの顔、下にいる人たち、また鳥、そしてやっと海の全景……なんだが、最初にちらっと見せた分はいらんだろ……。最後にどわーっと見せるべきところで、それも不発弾の塗りに引っ掛けて当然、真っ青じゃないとダメだわな……。えっ、夕方だし……と思っても、そこだけ時間を巻き戻すぐらいの強引さは欲しかったね。


 原作からの大幅改編は原作者の希望でもあるそうだが、そのビジョンと、監督、脚本、プロデューサーの持つそれらが必ずしも一致せず、船頭多くして……になってしまったのが多分こんなガタガタの映画になった要因なのだろう。個人的にはオチまでつけた後半の印象がずっと良くて、逆算して前半も振り返ると多少は盛り返した。余計な描写を切って二時間ちょっとに絞って一本にしていれば、オチから連想される『メイズ・ランナー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150618/1434638833)程度の、意外に満足度のある見てる間ぐらいは面白い映画になったのではないかという気もする。ダメだダメだと思いつつも『るろうに剣心』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141003/1412265048)なんかよりは好きだしな……。

進撃の巨人(18)限定版 (講談社キャラクターズA)

進撃の巨人(18)限定版 (講談社キャラクターズA)