”あの高みに立ちたい”『アメリカン・ドリーマー』


 ジェイソン・アイザック主演作!


 1981年、ニューヨーク。絶え間ない犯罪に苛まれる町で、移民出身のアベルは妻のアナと共にオイル・カンパニーを築き上げていた。だが、事業を拡大すべく長年渇望していた土地を買うため手付を渡したところで、検事による立ち入り捜査、輸送トラックへの襲撃が立て続けに起こる。銀行の融資を断られたアベルは、残金を捻出すべく奔走するのだが……。


 ジェイソン・アイザックさん、あ〜、『ロビン・フッド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101230/1293672340)のジョン王か……あれとは正反対のキャラですね。やり手であり実務肌、なおかつ理想家。それぞれ別々のキャラに割り振ってもよさそうな内面の設定を一人で兼ね備える男。
 映画はこの移民出身の彼が地元を一望できる広大な土地を買おうとするところから始まる。手付けに4割、すでに超大金! 大雑把に言うとあとは銀行の融資で賄い、買った土地に残ってる油を売って、土地をターミナルとして貸して投資分を回収し返済していこう、という計画。
 しかし、そもそもギャングの資金源になってきた歴史のあるニューヨークのオイル業界。裏社会とも話はするものの、商売上は関わらずやっていきたいと思っているのだが、事はそう簡単ではない。だいたい、妻のジェシカ・チャスティンもかつての大物ギャングの娘だったりするのである。


 最近、頻繁に起こっているのが運送トラックの襲撃。銃を突きつけて従業員を殴り倒し、車ごと奪って、オイルだけ抜いて放置する……という、どう考えても同業者が噛んでいるとしか思えないもの。手下を使って直接やらせているのか、野良の盗人がやったのを買い取っているのかは不明だが、いつ襲われるのかわからない運転手たちがびびりまくり。特に実際にボコボコにされた社長と同じ移民出身の運転手(南米系。ちょっとギルバート・メレンデスに似ているが、ひ弱そう)が、かなりメンタル的に追い詰められている。同郷だからということで社長に憧れ、彼のような成功を夢見ている青年だが、社長は彼を可愛く思いつつもそれは大変なことなんだよ、ということを知っている。まして、クリーンにやろうとすればするほど……。
 運転手たちは武装を要求するが、ぶっ放して人死でも出たら会社の評判はおしまい。社長は頑なに拒否。しかしそこを再び襲撃が……。
 一方、名前を呼びにくいデビッド・オイェロウォさん検察官が脱税疑惑をふっかけて起訴してくる。おいおいおい、それは絶対ありえない、と強気な社長。経理を任せている妻に帳簿を全てチェックするように言うのだが、容赦ない手入れ! 見られたくない、と未チェックの帳簿を隠すジェシカ・チャスティン。


 いやはや、起こっていることは全て地味そのものなんだけど、全てクリーンにやるぞと自らハードモードに難度を引き上げてる社長さんのせいですごいスリリングに! そういう回り道こそが最も近道なんだよ、ということなのだろうが、格好良くもありもどかしくもある。


 妻役のジェシカ・チャスティンの、自分はギャングの娘だが、そこらへんのギャングよりも、基本的に理想家の自分の夫の方がカッコいいと思ってるところが面白い。検事に啖呵切って見せるとことか最高。惚れてるんだね。しかしカッコいいはカッコいいし将来性もあると思うけど、いざと言う時はやっぱり裏ごとに手を染めなきゃダメなんじゃないの、とも考えてるのだな。黙って銃を持っていたり……。ここらへんの「夫婦あるある」感も渋いわ。

 支払いのリミットは一ヶ月なのだが、従業員がとうとう銃をぶっ放して、銀行が融資を中止! 土下座して三日余計に待ってもらい、逃げた従業員探しと資金繰りを同時にやることに……。明日はどっちだ!?


 監督は前作『オール・イズ・ロスト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140330/1396163454)から、またガラッとジャンルは変えてきたが、ギリギリの状況で自分の為すべきことをする男、というメインのところは外さず。しかしラスト、どこまでもクリーンを目指し手に入れたはずのものが、結局は血で汚されてしまうあたりの皮肉さをオイルを交えて表現するあたりとか、なかなか熱いですな。それでも男は前に進み続けるしかない……!