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”チェアフォースのゲーム”『ドローン・オブ・ウォー』

映画


 アンドリュー・ニコル新作!


 2010年、ラスベガス。アメリカ空軍トミー・イーガン少佐は、毎日基地へと出勤し、ドローンの遠隔操作によって遥か1万キロ離れたアフガンへの攻撃を行っていた。コンテナの中の無機質なモニター画面、クリック一つで放たれるミサイル……。元パイロットの矜持も何もない「現代の戦争」の中、トミーの精神は少しずつ蝕まれていく。


 アンドリュー・ニコル監督と言えば、格好に中身が追いつかず腑抜けた『TIME』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120223/1329991911)と、トワイライトの人が原作書いたラノベ『ザ・ホスト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140701/1404140776)とゆるゆるのSFを二連発してしまい、残念だけどもう終わっちゃったのかな、この人は……と思っていたところであった。


 そんな彼の新作はまたSF……じゃなかった! シリアスな現代劇だ! アフガニスタン上空を飛ぶ米軍の無人機ドローンと、それを操縦する「パイロット」たちを描いた戦争物。いや、アメリカから操作してアフガンの無人機で敵を狙い撃ち、なんて一昔前は完全にSFだったのだが、もはや完全に実用化され、オバマ政権下でも積極的に運用されているんだな。上空3000mを周回しながら武器を持った敵をカメラで視認、レーザー照射で照準を合わせミサイルを撃ち込む。指揮、操作、照準、索敵とで、最大5人で運用。
 武装勢力に狙いをつけ、発射から10秒後に着弾、直撃を受けたら一発でミンチ、爆風を食らった周囲も吹き飛ぶ。アクション的にはこの10秒のタイムラグが結構重要で、周りに誰もいないから撃ったら、急に自転車で子供が走ってきたりして大ショック。
 そしてその操縦席は砂漠……砂漠は砂漠でも遥か彼方、アメリカはラスベガスの基地内にあるボックスにある。主人公イーサン・ホークはF16を駆るパイロットだったが、前線から異動して今やこのドローンの操縦士。危険もないが戦闘機に乗っていた時代の特別なスキルが必要なわけでもなく、淡々とドローンを飛ばし、ある時は攻撃、ある時は監視の任務に就く。


 また空を飛びたい、パイロットに復帰したいと上司ブルース・グリーンウッドに訴えるイーサン・ホーク。まあ良心というものがあれば相当にメンタルがやばそうな仕事で、上司は「これはゲームではない、人を殺してるんだということを新兵にも教える!」と息巻くのだが、スイッチポンで人が死んでしまう軽さばかりが強調される。


 勤務が終われば車に乗って、妻子の待つ家へ。家に待っているのはジャニアリー・ジョーンズ、超エロい奥さんだ! 休日は軍の同僚とバーベキューして、夜のカジノへと繰り出す。実感なき殺人に加えて家族との平和な暮らし……これでケアも万全だろう、と米軍は思ってそうだが、しっかりメンタル危機のイーサン・ホーク。そもそも任務の内容は妻にもしゃべれないし……。たまに上空から歩兵の休息の間の護衛をするのが癒し。いいことをしてる、と実感できる。


 『ガタカ』で夢を追っていた主人公が、その後生きてればどうなっちゃったか……という話にも見える。理想の果てにあるのは、際限のない汚れ仕事で、さらにエスカレートしていく。
 武装勢力のみを攻撃対象にしていたはずが、CIAの指揮下に入ることで、「えっ、民間人じゃないの?」「えっ、倉庫じゃないの?」「えっ、まだ子供いるんですけど……?」と言う局面でもぶっ放さなければならないように。新任で来た照準係ゾーイ・クラヴィッツが「マジで?」みたいな顔をしている横で、率先して引き金を引かねばならないイーサン・ホーク。当事者レベルでの葛藤が照準画面を前にして徹底的に描かれ、『アメリカン・スナイパー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150310/1425992263)よりも直接的に問題提起する。消し飛ぶ子供、任務完了後にかけられる原題になっている「good kill」の声に何を思うか? それら全ての理由や任務の内実は説明されず、記録に残されることもない。


 やっぱりアンドリュー・ニコルって、良心の人なんだなあ、と実感しましたよ。ディストピアにおける非人間的なシステムに対し常に物申し、そこからの脱却を描いてきた彼が、現実になったSF的ディストピアを描くことで、カムバックを遂げた。わかりやすく図式化し、丁寧に描写して観客一人一人に問いかける。
 撃たれる前に撃つしかない、自分たちが撃つのをやめても奴らは撃ってくる……一見、もっともらしい理屈で米軍の行為にも自己弁護が図られる。確かにそうかもしれない……だが、本当にそうか? そう決めつけて引き金を引き続けること、殺し続けることを正当化する、安全な遥か高みから……。キリスト教風に言うならば、それは「神に委ねる」べき領域に踏み込んでいるのではないか。


 ますます枯れてうらぶれ、小市民的なルックスになってきたイーサン・ホークの自分を見失っていく演技も素晴らしく、まさにブラック企業勤めの社畜ですね。
 それと対照的にラスト、彼が手を下す最後の殺人において、倫理的には相当ギリギリなんだけどなんだか妙にいきいきして見えるあたりの、束の間、善悪の境界線に行っちゃった感じもまたすごい。これが本当の「good kill」だ、バカヤロー!ってね。


 ひさびさに快作をかっ飛ばしてくれて非常に嬉しい。また次回作に期待。

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