”その先の風景"『わたしに会うまでの1600キロ』


 リース・ウィザースプーン、製作・主演!


 砂漠と山道が続く1600キロのパシフィック・クレスト・トレイルを歩くシェリル・ストレイド。慣れない大荷物を背負い、テントの設営にも難儀する素人の彼女だが、この道を歩き続ける理由があった。母の死、結婚生活の破綻……。歩を進める彼女は、過去を思い現在を思う……。


 ついこないだ『奇跡の2000マイル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150827/1440675346)を観たところなのだが、なんか似たようなタイトルで損をしそうな映画。こちらは現代のアメリカで、シェリル・ストレイドという女性が、パシフィック・クレスト・トレイル、略してPCTと呼ばれるアメリカ最長の遊歩道を踏破したお話。距離は2000マイルの約半分だが、山が多いのがしんどそうなところだ。


 動物は連れず、リュックをかついでたった一人で移動。時折、店で食料や燃料を補給しつつ、キャンプ場や街を渡り歩く形でひたすら進み続ける。そこそこメジャーなレジャーでもあり、参加には登録が必要。
 途中で断念も出来るし、ものすごく危険ということもないのだが、そうは言っても女の一人旅で、怪しい男もいれば崖もあり雪も降る。そもそも全然体力なさげでハイキング、登山経験も皆無。完全に荷物に背負われている状態。出発直後から大チョンボをやらかし、燃料なしで水粥で米を食うことに……。


 計画性がないわけではないが、如何せん経験不足すぎて無駄も多い。正直行って自信があってやってるわけではない。ただ、やり通すんだという虚仮の一念だけがあって……。


 旅の最中、なぜこんなことをするのか、ということが少しずつ語られていく。まずは自身の結婚生活の失敗。麻薬と行きずりの男とのセックスに溺れ、夫を裏切り続けながらも自分でもどうしようもなかった日々。さらに遡って、母親との関係も描かれる。暴力を振るう父と別れ、自分と弟を連れて逃げた母だが、娘と共に大学で学ぶ日々を送りながら、ある日ガンで倒れ、帰らぬ人となる。いつか、


「いつも妻だったり母親だったりで、自分の人生を歩けなかった」


と語っていた母。母親役はローラ・ダーンがやっていて、回想シーンだけの登場だがどこかフワフワして夢見がちに見えるキャラを、あの目の細い顔でニコニコしながら上手く演じているのだよね。それに対して憎まれ口を叩きつつ、その母を喪失したことで自分の人生のバランスをも失ってしまうリース・ウィザースプーン
 このあたりの回想が、監督が同じだから『ダラス・バイヤーズ・クラブ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140309/1394366586)とそっくりで、時系列をバラしながら非常に美しい映像と細かいカット割りで入れ込んでくる。まさに歩きながらふと思い出してしまった……という、記憶の断片性を表現していて面白い。


 『奇跡の2000マイル』もそうだったが、今作もまた「旅の理由はこうなんですよ!」と明確に語るわけではない。冷静に考えると、なんでこのPCTでないといけないのか、そんな理由さえもない。同じ実話だが、今作の方がより「心の旅」部分のウエイトが高く、主人公がさほど狷介な性格でないために、わかりやすくはなっている。旅の描写ではちらちらと現在のアメリカの姿を混ぜ込み、主人公一人の病理に留まらない社会の姿を浮かび上がらせる。
 暴力によって生活を失いシングルマザーになった母が成し得なかった、自分の自由に生きるということ。それを母に代わって成し遂げることで、自分の再生をも期する……。途中でいちいち作家の言葉とか残したり、途中で「ホーボーだ!」と言われるとイラッとするあたりの自意識が若干痛いところが、またリース・ウィザースプーンという役者にぴったりでもあるね。『MUD』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140219/1392725316)あたりでの定番キャラからの再生、脱皮を計っているようで、この映画を作ること自体がリースにとってのPCT踏破であったのだろう。


 ようやく目的地に着いた時に感じたものは、旅の出発の頃にイメージしていたものとはまるで違っていて、そのギャップに戸惑うこともある。だが、終わってみればそれもまた良し……。さて、リース・ウィザースプーンには、どんな風景が見えたのかな。

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