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"もっと歯を、もっと血を"『ジュラシック・ワールド』

映画


 恐竜テーマパーク、開園!


 新たなオーナーを迎えての開業から10年が過ぎ、今日も順調に動員を伸ばす「ジュラシック・ワールド」。パークの監督役であるクレアは訪ねてきた二人の甥にアシスタントとフリーパスを付けて放置し、今日も仕事に余念がない。現在の関心ごとは、間も無くお披露目を迎える、遺伝子操作で生み出された新種恐竜インドミナス・レックス。だが、そのインドミナスが、突如壁の中から消えて……。


 開園と言いつつ、もう10年ぐらい平常営業が続いている状況から映画は始まる。入場制限しても来場者二万人だということで、これは餌食が増えたな、と期待が高まる一方ですよ。


 充実ぶりをアピールするワールドでは現在、


 一作目からおなじみ、悪名高いハンター・ヴェロキラプトルを餌付け訓練中!
 水中ステージも充実、プールで巨大なモササウルスの食肉実演中!
 ティラノサウルスより凶悪強大、インドミナス・レックス(作ったのは第1作にも出てた学者)がいよいよ公開待ち!


 もうこれからバンバン人が死にますよ、と言ってるようなもので、ワールドの運営やスタッフが全員狂人に思えて、笑いが込み上げてくる。仕切りをやってるブライス・ダラス・ハワード然り、「人間のちっぽけさを知らしめる」と言ってるオーナーのパイさん(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130201/1359628959)然り。雇われで来てるクリス・プラットと、司令室でわざわざ旧作Tシャツ来て挑発的なオタクだけが、どうにか外部からの視点を持ち合わせているのだが、そんな良識は黙殺されるしかない。
 さらにラプトルの軍事利用に燃える微笑みデブことヴィンセント・ドノフリオが、ラプトル飼い慣らしに慎重論を唱えるクリプラとオマール・シーの「最強のふたり」に対し、これってなっち字幕だからか、言ってることがまったくわからないごたくを延々と並べ続ける……。このシーン、安倍首相の答弁並みに言ってる意味がわからなくてクラクラしたのだが、原語では会話が成り立っているのだろうか。クリプラのうんざり感だけは嫌という程伝わってきたような気がしたが、「机上の空論」プラス「下手な直訳」がこんな破壊力を生むというのは想像だにしなかったね。


 外面は「本物の恐竜が見られる夢のテーマパーク」感、いかにもな楽しげさを全開にしているのだが、裏では相変わらずの金、利益、活用、もっと、もっと、もっと、もっと……! おぞましさが満開で、いやあ、これこそがまさにハリウッドなんですね。
 そしてそこに群がる大量の群衆。ぞろぞろと入場してくる、恐竜博士気取りのジャリ含む自分が安全な場所にいるつもりの人たち……。もっと、もっと、もっと、もっと……! 娯楽なんだ、享受する方には裏事情なんて関係ないぞ、と思っていたら、空から翼竜が襲ってくることになるのである。


 演出にスピ的な小技はないが、当然、物量勝負で展開早め。人間より賢くなってるインドミナスが、奇策を弄して大脱走! 早々と二人ほどが血祭りにあげられる。その時点では登場人物たちもみんな、彼らの死と今後の事態を鑑みて沈痛な面持ちをしているのだが、その後も犠牲者がガンガン積み重なるうちに、もういちいち反応してられないとばかりに段々と流していくようになるのであった。


 宇宙の守護神じゃないクリス・プラットは今回は最初から頼れる男で、ラプトル飼育シーンからそのスキルを全開。いや、事前にネットでみんなが真似してたあのラプトルをストップさせるシーン、もうちょいのほほんとした場面かと思ってたら、かなり洒落にならない緊迫感溢るる展開だったのでドン引きしたね。真似してる場合じゃないよ! つうかこの調子なら、すでにこの十年に飼育係とかの死者は相応に出ていたのだろうな。


 それに対してブライス・ダラス・ハワードのキャラが結構、面白い。生命を省みずに遺伝子操作に手を染める『ディープ・ブルー』のサフロン・バローズ的キャラかと思わせるのだが、段々と変わっていく。
 姉に子供の世話を押しつけられ、さらにそれをアシスタントに押しつけて放置。アシスタントは結婚を控えていたようで、将来「子供」という存在を引き受けねばならないんだからおまえ面倒見ろよ、と押しつけられたような……。
 ワールド内が阿鼻叫喚に陥り、甥っ子たちも行方不明になったことで、事態の収拾に動かねばならなくなり、やっとこさ自分のしてきたことのアウトぶりに気づく、という、良識とビジネスの境界線上にいるキャラクター。
 アニマトロニクスを使って一作目にオマージュを捧げたシーンで、「生命の尊厳」に気づいたようなふしあり。一方で、インドミナス・レックスという親を持たぬ個体が大暴れし、それから子供を守ることで子供に対する愛情が芽生えたのかというと、そこまで教条的ではない。ガキの面倒見るのはやっぱり超うぜえ〜!でもほっとけるほど情のない人でもないし、それまでの自分を捨ててハイヒールを脱ぎ捨てるほど大胆にも変われない。ストーリーが幕を開けた時点では『ヘルプ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120407/1333791288)のあの女同様にダメな側にいたはずが、相変わらずツンツンしつつもどうにも憎めないキャラになってて面白い。


 ダメな人たちはそれぞれに破壊的な事態の悪化を巻き起こしたあとで、壮絶に散って行き、残った人間は事態の収拾に奔走する。裏切られても結局はラプトルに頼らざるを得ないあたり、まさに恐竜に罪はなく、事態を巻き起こしたのはすべて人間なのだ。人間が恐竜を弄び、人間が人間を殺したのである。


 後半も見せ場たっぷりで、映画そのものがアトラクションのようでもある。スピルバーグオマージュっぽい、半端ない人死に場面なのに笑いがこみ上げてくる悪趣味な演出もあり。群衆が上方向からの攻撃から逃げ惑うシーンは、どことなく『宇宙戦争』のトライポッド起動後のシーンを思い起こさせるね。


 旧作オマージュも入れ込みつつ、どんどん過剰になっていくハリウッド映画そのものをテーマパークに見立てたような構造も面白い。クライマックスの「もっと歯を!」も、まるでジャリが「やっぱラプトルじゃ弱いよ。クライマックスはもっと派手な対決シーン入れなきゃ」と言ってるように聞こえてくる。ああ、これだけ大惨事が起きても、何一つ懲りない。まことに人は業の深い生き物だな……。


 常識で考えたら、こんな人死にが出たテーマパークは閉鎖なのだろうが、残念ながら人はすぐ忘れ、映画はもっともっともっと、と、平然と続編が作られるのである。より過剰により過激になりながら……。我々もまた恐竜の大暴れと大殺戮をヘラヘラと楽しめる。これこそが理想のテーマパークだ。

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