"もう階段落ちはしない"『チャッピー』


 ニール・ブロムカンプ監督の最新作!


 犯罪の多発するヨハネスブルグに、切り札として投入されたのはロボットのSWAT部隊。ロボ警官の活躍により、製作者のディオンは所属する会社の中でも一躍有望株に。だが、彼は命令に従って動くロボットに満足せず、世界にたった一台の人工知能を持つロボットを開発しようとしていた。社長によりすげなく却下されたことで、ディオンは密かに廃棄寸前となったロボットに、その人工知能を組み込むのだが……。


 『エリジウム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131012/1381585220)は面白くなかったのだが、まあ結局のところ、少々「甘い」監督なのだね。設定や美術の作り込みの部分で異様な凝り性ぶりを発揮するが、それを作品のテーマに結びつけてストーリーテリングしていく段階で、いささか緻密さを欠く。これってかなり重要なところじゃないの?と思われる部分を理論で詰めず、大飛躍で突っ切ってしまう。製作・脚本・監督の今作もやはりそうなった感あり。


 しかし今作はつまらなかったわけではなく、やっぱりお蔵入りになったED209を尻目にロボコップが大量配備される冒頭から、なかなか笑わせてもらった。ロボット警官を開発したのは、『スラムドッグ・ミリオネア』の少年ことデーヴ・パテル君、もういい大人になってるが、いかにも弱そうなインテリ青年。大してED209のようなロボ警官としてはいかにも大げさな火器を満載した「ムース」を作ったのはヒュー・ジャックマン、元軍人のエンジニアでご存知のとおり超マッチョ男でクリスチャンである。
 デザインがED209なところから突っ込みどころ満載で、こんなもの役に立つわけねえだろう、まして人が操縦するとか……。そりゃあAI搭載で小回りの効くロボットを誰もが導入するっしょ。しかし大真面目に警察にプレゼンするヒュー・ジャックマン。「飛行する目標に対しては……」「そんな犯罪者いないよ!」と突っ込まれる。シガニー・ウィーヴァー社長がなぜこんなプロジェクトを予算減らしつつも存続させているのか謎だ。
 パテル君の成功を妬むヒュー・ジャックマン、彼をストーキングし、弱みをつかんでパワハラしまくるところがまた最高! 「教会に来いよ」「おまえもジムでトレーニングしろよ」と、わかりやす過ぎるマッチョっぷりだな……。
 『プリズナーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140513/1399992410)でも、ヒュー・ジャックマンはオーストラリア人なのにも関わらずアメリカの「旧い父親」像を演じていたわけだが、今作ではどーんとわかりやすく、マッチョのクリスチャン。なんでこんな象徴を背負わされているのか、やっぱりアメコミヒーローを演じたせいなのか。


 終盤、マジにAIを完成させチャッピーを誕生させてしまったパテル君とギャング達、さらにチャッピーそのものを抹殺すべく、ついに「ムース」が出撃するところが今作のハイライト。いや〜、ED209だからガッチャガッチャと歩くのかと思いきや、いきなり飛んだから驚いた。これは警察には不要だよ!という突っ込みも虚しいのだが、まあ階段から落ちるよりはましか……。
 ヒューさん、あのマッチョな肉体に秘めた力を持て余している、フラストレーションが溜まりすぎている演技が絶妙で、パワハラシーンでそれがにじみ出るのだが、ここで一気に大爆発! ものすごく活き活きとロボットを操作するシーンの熱の入りようは、かの『リアル・スティール』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111211/1323615379)のクライマックスを彷彿とさせる。あれは「パパ、頑張って!」とまさにうらぶれていたアメリカの父親が権威を取り戻して拍手喝采という象徴的シーンなのだけれど、今作はまさにその邪悪版。使用を許されなかった力を自由に振るい、そのマッチョぶりを解放する。思わず目を剥くクラスター爆弾他のあらゆる火器をばら撒き、「アメリカ」という名の男まで惨殺しちゃい、貧民、女、子供、外国人、あらゆるマイノリティに牙を剥くその姿、これこそがアメリカのクリスチャンのマッチョ男が世界中で今もやっていることなんだよ!


 監督は『ロボコップ』大好き、『リアル・スティール』は嫌い、『A.I』はまあまあ好きって感じかな。チャッピーの活躍など、素晴らしい劇燃えシーンも多々ある反面、一応主題であるはずの人工知能と人間の対比に関しては、人間とロボットが同じヘルメットかぶって、同じ原理で意識をコピーしちゃうあたりで、まああまり真面目に読み解くほど掘り下げきれていないことがわかるな……。
 教育によってロボットもまた変わってしまう、ということは一応描かれているが、造物主であるパテルや、ギャング夫婦が最終的に性善説寄りキャラになっているので、何だかよくわからないけど大丈夫!ということになってしまっている。まあそこはヒュー・ジャックマンのキャラを露骨なまでに敵役に設定しているあたり、この作り手の本質的な無邪気さと呼べるものなのであろう。スカイネットが世界征服しちゃっても、いいじゃん! 人間も機械になろう!ってな……。


 語りたいテーマはあるんだけれど、それらを俯瞰する透徹した視点を持ち切れず、SF要素がビジュアルばかり先行しちゃってるんですな。それも味なのだが、やっぱり舌足らずな印象が残ってしまう。
 まあ悪くはないと思うのだが、全米の成績も振るわなかったようで、こりゃあブロムカンプの次作はどうなるか、いよいよ心配になってきた。このままカート・ウィマー化が進行するのであろうか……。

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