”バッドエンドへまっしぐら？”『軍中楽園』

　
　大阪アジアン映画祭2015、七本目。

　1969年、金門海峡。大陸からわずか1.8キロのこの地で、精鋭部隊が訓練を行っていた。だが、配属されたのはいいがカナヅチだったシャオバオは、軍公認の娼館へと配属される。個性的な娼婦たちに囲まれ、翻弄されながらも仕事に励むシャオバオ。その中で彼はどこか影のあるニーニーへと惹かれていくのだが……。

　台湾と中国の間の海峡を挟み、両国が睨み合い緊張状態にあった時代。軍に入り、『フルメタルジャケット』のような訓練を受けていた主人公であったが、体力はあったが泳げないという致命的な弱点が発覚し、閑職へと回されることに……。郷里に婚約者がいて、なおかつ童貞である、というステータスを買われ、女の園である「軍中楽園」へと派遣される。兵士専用の「慰安所」であり、契約下にある娼婦が半ば軟禁状態でセックスの相手をさせられている。
　こいつならそんなところに放り込まれても、多少は遊んでしまうのはしようがないが、まあほどほどに真面目にやるだろう……というのが上層部の見通しっぽく、特定の女に入れ込んだりしないような人材ということか。
　しかし、この童貞の主人公が女の園に転がり込む、という話、ほとんどギャルゲーだな……。娼婦たちのキャラもそれぞれ立っていて、陽性、陰性、年増、ぽっちゃり、泣き虫、小悪魔、お笑い担当にクールビューティなど様々な属性のキャラが集う。さあ果たして、主人公はどのルートを選び、誰を攻略するのか……？という話に見えなくもない。
　まあ映画だから、一番綺麗どころにあっさりとハマる主人公！しかしクールビューティ様相手に肝心なことはせずに、ギターやら時計やらで地道にフラグを立てていくまだるっこしさ。まさにギャルゲーだっ！

　主人公がなんとも言えない味のあるフェイスをしていて、人好きはするけれどまったくイケメンじゃないのと同様、彼の元教官である鬼軍曹も厳しいんだけど面倒見がいい人のいいおじさんである。さらに、主人公の訓練時代の仲間がメガネキャラで、こちらはいかにも軍隊に向かない性格の人。鬼軍曹は小悪魔ルート、メガネは外国人ルートに進み、これで一気にバラエティ豊かになっていく。二人は主人公の歩むかもしれなかった道をたどっているのである。

　まあちょっと話の進み具合こそコメディタッチで馬鹿馬鹿しく思えるところもあるのだが、いつ砲撃が降り注ぐかわからない場所での性労働がそもそもアウトで、端的に性奴隷。いかにも悲喜こもごも、ちょっと楽しげにさえ見えるところが、この慰安所の悪質さであるということは抑えておかねばならんところ。
　逮捕された娼婦を前線に送り込み働かせたこの「軍中楽園」は1952年から実に40年近く存在し、90年代前半に中国との緊張緩和に加え、人権侵害との声の高まりによって廃止されている。まさに台湾の暗部。

　クールビューティは元人妻で、さらに他の娼婦とは決定的に違う立場であることが、小悪魔ちゃんの暴露によって明かされる。それでも童貞は童貞であるがゆえに彼女に対する態度を崩さないでいられる。が、メガネと鬼軍曹の二人は、非童貞として娼婦に入れ上げて破滅へと爆走していくのである。まあこの辺り、何とも哀切を極めるっちゃあ極めるんだけれど、一方でそりゃそうだろ、という気がしないでもない。嗚呼、男の純情（笑）。
　チェン・ジェンビン演ずる鬼軍曹は、一方の主役であると言えるぐらいにキャラが立っていて、かつて大陸で母と生き別れになって台湾にやってきて、いつの日か故郷へと帰ることを夢見ている。その夢を、どこか母に似た面影を持つ娼婦、小悪魔ちゃんに投影してしまったことが、悲劇の始まりでもあった……。
　ラスト、もし時代が、運命が変わっていれば、こんな結末があったかも……というシーンのところで、思わず「ないない」と突っ込んでしまったが、その甘さもまた味か。『モンガに散る』の監督ね。
　描写はあからさまに批判的な論調をなるべく抑え、娯楽作品として多くの人に見てもらおうと四苦八苦した感がうかがえる。このシリアスなテーマを語るのに最適な手法とは必ずしも言い難いと思うが、映画としては非常に面白く、美しく、胸を打つものとなった。従軍慰安婦の問題は日本においてもまったく他人事ではないので、歴史を学び、今もなお生きる人たちに思いを馳せるためにも、ぜひとも公開してもらいたいところ。今回の映画祭の中でも、非常に一般性が高い。

　『セーラ』（http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150402/1427977382）と続いて二本見たが、セックスワーカーの問題が今年のアジアン映画祭の裏テーマだったのかもしれない。アジアの歴史と慰安婦は切っても切れないということでもあろう。