”私とやりたいの?”『セーラ』

 
 大阪アジアン映画祭2015、四本目。シャーリーン・チョイ主演作!


 政府高官のクラブ接待を、潜入取材でスクープしたジャーナリストのセーラ。だが、会社の判断で記事はお蔵入りに……。休暇を取ってタイに来た彼女は、売春をする少女アンジェラと出会う。セーラもまた、かつて身体を売っていた過去があった……。


 ツインズの、エディソンにヤられなかった方、丸顔の方、シャーリーン・チョイ。近年、『トリプルタップ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130121/1358763204)などで観た感じ、演技力も磨いて来てる感ありでしたが、今回は堂々の主演です。


 冒頭、女子高生時代の主人公が継父にレイプされる衝撃シーンからスタート! 見て見ぬふりをした実母にも愛想を尽かし、家出を敢行。野外生活を一年ぐらい続けていたところで、教育行政の役人であるサイモン・ヤムに出会い、愛人契約を結ぶかわりに学業に励むことになる……。
 「足長おじさん」の寓話が語られるが、構図は似通っていても現実は甘くない! 妻子もいていい歳で「無理強いはしないよ」と言いつつ、若いことイチャイチャしてウハウハなサイモン・ヤムでありました。


 身体を提供しつつ勉学に励むシャーリーン・チョイですが、時系列は十年後、独立してジャーナリストになっている彼女のお話と並行して進みます。役人の接待を暴こうとして記事を没にされたシャーリーン・チョイ。休暇を取ってタイへ渡り、そこでセックスワーカーの少女と出会うことに。彼女を取材し、人生の再出発のために人肌脱ごうとする……。


 一方では、親元を離れて独力で生きるために肉体を提供した生活を描き、もう一方で娼婦とならざるを得なかった少女を描いて両者を対比させる……のだけれど、ちょっと両者に細かい差異が多いので、同じように一般化するというのが感覚的にピンとこない。足長おじさんサイモン・ヤムがいる一方で、タイ人の少女を搾取する男性は可視化されないし、解放しようとするシャーリーン・チョイが足長おじさん役を担っているようにも見えて、ややこしいな……。もちろん継父にレイプされ母に庇ってもらえなかった少女と、家族の生活のために身体を売る少女は、同じ男性性からの搾取を受けているという意味で広義には似通った存在である、と言えるし、まあ少々境遇が違っても、部分部分でも重なれば個人的共感を抱くことは当然あるだろう。そして、結局、両者は違う道を歩むし、境遇が違えば同じ方向へも進めない、ということで筋も通る。
 ……なんだが、話の大筋がシャーリーン・チョイのモノローグで進むがゆえに、どうも違う話を強引にナレーションで結びつけてるような印象を受けてしまうのだよなあ。
 で、さらにサイモン・ヤムとの関係が愛だの何だのと、昼ドラのような心理の駆け引きの絡むドロドロかつテクニカルな展開になるので、「サービス!」と連呼するタイの少女の単純さとなかなか同列に捉えられない。


 見終わると、大筋ではこういう話だったのか、と、わかるのだが、ちょっと話運びがズレているように感じるのは、やはり時系列の入れ替えかな。主人公が愛人関係を清算してジャーナリストになり、年月を重ねてその心の整理を終えた後でタイに行っていれば、新たな面から女性とセックスワークの問題を捉えられた、という解釈でいいと思うんだが。途中でいきなり自殺計るあたりも、無責任すぎるでしょ!


 とはいえ、シリアスなテーマに取り組んだ意欲作でもあるし、全体としては買い。サイモン・ヤムのいやらしさも最高だし、シャーリーンのヒステリック演技もいいですよ。