”勝って登り詰めろ!”『ワイルドカード』


 ジェイソン・ステイサム主演作!


 ラスベガスの裏社会で雇われボディガードをしているニック。決して銃器を使わない男として知られる彼の、元恋人が何者かにレイプされ重傷を負う。犯人を見つけ出して欲しいという彼女の頼みを、一度は断るニック。裏社会には裏社会のルールがあり、危険な相手に手を出してはならない……。一方、カジノに繰り出したいという青年のボディガードを引き受けたニックは……。


 まあ予告編を観ると毎回同じような内容に見えるのだが、その都度、微妙に新機軸を盛り込んでくるのがステイサム主演作なんですね。今作はラスベガスを舞台に、マフィアとの壮絶アクション……と見せて、ギャンブル中毒者の自分探しが主題だったのでした。
 冒頭からしようもないやらせ寸劇の負け役を演じ、友達と彼女との仲を取り持つという侠気あふれる一面を見せるステイサム。まあそれはそれでいい話なのだが、あまりにガツガツしてないというか無気力というか、その日暮らしをしている感が漂う。
 時折回想として入るヨットの映像が、元特殊部隊としての壮絶な過去を暗示しているのか、と思いきや、お金貯めて地中海に行ってヨットクルーズしたいというのほほんとした夢だったからずっこけた。
 だが、そんな夢を抱きつつも、カジノに行ってはスる毎日。目標の50万ドルには遠いのだけど……。


 監督は近年『エクスペンダブルズ2』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121028/1351425913)でも組んだサイモン・ウエスト。まあせわしない映画作りで知られる人ですが、今作は妙に緩くて、そのくせモチモチとコシのある演出をして、矛盾した心理に苛まれるステイサムさんの姿をじっくり見せる。その日暮らしのためにマフィアがのさばるベガスのルールに従っているが、友達のピンチは放っておけない。悪党を素手で成敗するだけの実力を持っているが、厄介ごとには関わりたくない。ギャンブルもまずまずの腕だが、本気で勝ち切る気があるかというと疑問符がつく……。
 そんなどっちつかずの男の葛藤を、背後から後押しするような事件が次々と起き、結果、少しずつ殻を破っていくような格好になる。


 いつものステイサムにハードボイルドっぽい味付けを加え、アクション描写よりも自分探しがメインに。まあ観ていて何だかはぐらかされてるような気がするのだが、不思議とじんわりと面白みが増してくる。チンコ切り拷問の横で困ったような顔をしているステイサムに対し妙な親しみが湧いてきて、主役である彼ではなく、その友達の誰かから見た親近感を共有しているような気持ちになる。ハゲの男、娼婦、カジノのディーラー、マフィアのボスであるスタンリー・トゥッチ、ボディガードを頼むIT長者、みんな彼のことが好きなのだ……。何だか放っておけないような気持ちになり、ラストの大盤振舞いも、ありえねえだろうと思いつつ、なぜか納得するような……。


 アクションシーンはいつものチャカチャカ編集じゃなく、エフェクト頼みながら割合じっくり見せていてまずまず。武術指導はコーリー・ユエンで、ステイサムとは『トランスポーター』以来のコンビですね。


 めちゃ面白いわけではまったくないのだが、終わる頃には口元をほころばせて劇場を去ることになる、不思議な映画でありました。

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