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”明日へのパウンドラッシュ”『激戦 ハート・オブ・ファイト』

映画


 ダンテ・ラム監督作!


 借金取りに追われる元ボクシングチャンプのファイ。母子家庭の家を間借りし、友人のジムで働きつつ身を隠している。ある日、父の事業の失敗で文無しになったチーという青年が、ジムにMMAを習いにやってくる。大会出場を目指す彼に、ファイはボクシング指導を乞われ渋るのだが……。


 ダンテ・ラムとニック・チョンと言えばもはやお馴染みの顔合わせ。『ビースト・ストーカー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120504/1336039985)、『密告・者』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111106/1320573887)を経て、この後には『クリミナル・アフェア 魔警』も控えておりますよ。


 その二人が、今回はMMA映画を撮ってしまった! ハリウッドでは『Warrior』、韓国でも『フィスト・オブ・レジェンド』などが撮られているが、中国映画では初か? アクション映画では、ドニー・イェンの『導火線』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110619/1308391012)などでは総合格闘技のテクニック自体はふんだんに盛り込まれているのだが、スポーツとしてのMMAを扱った映画はまだまだ少ない。


 元ボクシング王者だったが、八百長試合で現役を退き、タクシー運転手などを経て、ギャンブルの借金返済のためにボクシングジムのトレーナーになったニック・チョン。ボクシングジムだけど、そこは現代の多様なニーズに対応すべく、ボクササイズからキックボクシング、MMAまで多岐に渡るカリキュラムを組んでいる。やる気なくボクササイズに励んで会員に怒られるニック・チョンだが、そこにMMA志望の青年エディ・ポンが現れる。
 事業に失敗して身代を失い、やさぐれている父を元気付けるため、MMAにチャレンジしてチャンピオンになりたい!というエディ・ポンに、ボクシングを仕込むニック・チョン。ロッキーがエディ・ポンで、コーチ役がニック・チョン……なのだが、残念ながらロッキーは病院送りにされ、コーチが奮起して美味しいところを持っていくことに……!


 エディ・ポンは『コールド・ウォー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131121/1385041067)、『太極』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130820/1376909845)など、悪役やってもいまいち凄みがないのだが、こういう若い弟分としてのキャラははまる。主役になれるはずの話でなぜか見せ場をかっさらわれる不憫さもまた……。
 まあしかし、同じように筋肉作って凄い肉体になっているアンディ・オンは、台詞さえろくにないほぼ格闘マシーンの非人間的キャラになっているので、それよりはマシでしょう!


 監督が監督だから、もっと死人が出まくる重たい話になるのではないか、と思っていたが、からりとスポーツライクで、清々しささえ漂う。「MMAは死人が出るぞ!」と3回ぐらい強調されるのだが、死亡事故ならボクシングの方がずっと多いので、これは単に映画的な煽り。それだけハードなことにチャレンジして、その戦う姿が人を勇気づけ夢を与えるのだ、というスポーツとしての格闘技の持つ力を謳い上げる。
 まあその果てとして対戦相手ともわかり合い認め合えるのだ……という要素もあるはずだが、そこはアンディ・オンだからスルーなのであった。
 使われる技やムーブ自体は、基本的に『導火線』と変わらないのだが、練習シーンをふんだんに盛り込んでその原理を説明し、さらに試合仕様にブラッシュアップしている。最初の脇役同士の対戦では、ポジション取りの反応が鈍い感じがしたが、後半の主役が戦うところではきちっと仕上げられていたね。撮り方が凝っていて、首相撲の中にカメラが入るのが特によし。
 映画序盤は打撃中心で、後半からは寝技の比重が増えてくる。当てているように見せるのがうまい香港スタント業界だが、やっぱりそうそう当たってない打撃を連発しているとひっかかりを覚えてしまうわけで、それよりも男と男の肉体がぶつかり合う寝技シーンを増やし、近いアングルで撮った方がより臨場感も深まるし、カンフー色を排除できる。


 大会のルールがおかしくて、チャンピオンにチャレンジャーが挑戦して2ラウンドの間にフィニッシュされなければ王座交代という珍妙なもの。しかし逃げ回って勝っても次は逆に倒さないといけなくなるので、後が続かない。チャンピオンになって10連勝すればやっと総合王者になれる。これは完全にテレビ放送向けの仕掛けだな……。一応、素人は参加できず、ジムの推薦か何かが必要。
 ルールはMMAだが、アジアではわりと多いグラウンド状態での顔面蹴りがOKなルールになっていて、エスケープする時に後頭部をガンガン蹴っていたぞ。まるでDREAM(かつて存在した日本のテレビ格闘技)である。
 ところで、利き腕を犠牲にして逆転勝利っていう流れは、マカオが舞台の地下格闘技を描いた大石圭の小説『人間処刑台』と同じではないか。さては、ダンテ・ラム、読んだな……(ないない)。
 ちょっとばかり浮いてる、マカオの街中をスクーターで走るシーンの美しさも素晴らしいですよ。他にも子役の熱演やらお母さんの病気演技やら欠陥だらけの住宅やら色々と盛り上がる要素をガンガン詰め込んでいるのだが、全部「戦う理由」に集約させてしまう手際の良さにも驚きましたね。元からまとめるのが上手い監督だとは思っていたが、ますます上達している……!


 師弟関係から友情が芽生える、というニック・チョンとエディ・ポンの間柄が話の軸になっているのだが、まあ冗談めかしているとは言え、段々とイチャイチャしてきて、正常位、じゃなくてガードポジションで唇が当たった当たらないのと妙な雰囲気に……。
 これは、究極的にはMMAとは同性同士が抱き合うスポーツである、という、まさに本質に切り込んでいると言えよう。たぶん、うん。