”私の知っている最高の弁護士”『ジャッジ 裁かれる判事』


 アメリカのファザコン映画。


 やり手弁護士のハンク・パーマーは、母の葬儀で故郷に帰ってくる。疎遠だった父、兄弟との再会。仕事と自らの離婚問題を抱えたハンクは、長居せずに戻るつもりだったが、父のジョゼフが突如、殺人の容疑者として逮捕されることに。裁判官として42年、正義を追求してきた父が殺人? ありえないと思いつつ弁護を買って出るハンクだったが、ジョゼフは彼を認めようとせず……。


 「裁かれる判事」と言えばスティーブ・マルティニのリーガル・サスペンスじゃね。法廷で散々煮え湯を飲まされた頑迷な判事が淫行で逮捕されたので大喜びしてたら、主人公の弁護士が弁護する羽目になる……というお話。しかし今作はまったくそんな話じゃなく、その判事が実のお父さんでありました!というより面倒臭いストーリー。


 弁護士の主人公はロバート・ダウニーJr.。切れ者で毒舌家、勝ちこそすべての弁護士……って、おなじみのキャラだね。長らく疎遠にしていた故郷に、母が急逝したことで帰ってくる。そこで待っていたのは兄と弟、まだ現役で裁判官をしている老父ロバート・デュバル、元彼女のヴェラ・ファーミガ
 さて、映画が始まって、母の死を悲しみつつなかなか疎遠だった兄弟や父と打ち解けられず、また自分の離婚やら娘の親権やらの問題があって悩み多き主人公。ダウニーJr.は近年にない繊細な芝居をしているのだが……なんだ……何も起きないのかこの話は……? ランタイムも長いんだが、延々とホームドラマが続き、一向に事件が起きない……。眠い……。
 やっとこさ事件が起き、かつて自ら刑務所に送った男が出獄してきたところを、判事父が車で跳ね殺したという疑惑がかけられる。町の弁護士は頼りないので、自分が出て行きたくてウズウズしているダウニーJr.、しかし父は頑なにそれを拒否し、事件の真相も覚えていないの一点張り。昔っからこの頑固オヤジは、俺のことなんて全然認めちゃいねえええええ!とダウニーJr.も怒り爆発。おたおたする兄弟……。
 ホームドラマ要素が強いので、法廷ものとしては異様にトリッキーになっていて、裁判で普通なら踏める手順が依頼人が仲悪い父親だから全然進行しない、という苦境に立たされる。そして立ちはだかる切れ者検事、ビリー・ボブ・ソーントン……!
 何だか非常に演出が大げさな映画で、このビリー・ボブ登場シーンも、斜め後ろからタンブラーを準備する手元だけ映しておいて、妙に溜めてからカメラがぐぐぐぐと周囲を回って行ったそこにビリー・ボブのキメ顔……という、なに、そのヒーロー物のヴィラン登場みたいな演出。後々、決定的な証拠を握ったビリー・ボブ、フフフフフと笑って、「おまえの父親を吊るしてやるぞ、アイアンマン……!」と宣言! それに張り合って、ダウニーJr.もどんどんトニー・スターク化していき、話も彼は何者か、というヒーロー論ならぬ弁護士論になってくる。


 父と息子の葛藤がメインストーリーで、そこに裁判官と弁護士のスタンスの違いなどが絡んで法廷で決着がつく……という構成はちょっと今までにないものを観た感があって、風変わりだが満足度も高い。最後の法廷での告白シーンの公私混同ぶり、『サイクロンZ』でジャッキー演ずる弁護士が、証人で出てきた彼女に「僕を愛していますか」「愛してません」「異議あり、偽証です」と法廷を超私物化するシーンを思い出してしまったよ。それで感動ストーリーなんだからたまんねえな。終わってみれば、確かにタイトルは『ジャッジ』だったよ……。
 ……が、そのメインストーリーはいいとして、兄弟やら元カノやら娘ちゃんやら……キャラが多すぎないか? ヴィンセント・ドノフリオの微笑みデブ兄はまあいいとして、8ミリマニアの弟やら、元カノとその娘やらにいちいち尺を割き過ぎていて、長い長い。おまけに前述の通り大げさな演出を連発するので、何だかお祭り映画のようなテンションになってくる。散漫とは言わないが、さすがに盛り込みすぎではないか。


 いい話だと思うが、あれもこれもあちらもそちらも足し算足し算で、映画として傑作にはならなかった、というちょっともったいない代物でありました。

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