"水と炎の狭間で"『マップ・トゥ・ザ・スターズ』


 クローネンバーグ監督作!


 有名女優のハバナは、死んだ母の幻覚を見て不安定になり、セラピーに通うように。著書の出版を控えたワイスは、息子ベンジーの子役としての活躍もあって、大きな成功を収めようとしていた。だが、一家に秘められた暗い秘密の象徴である長女アガサが舞い戻り、ハバナの個人秘書に収まってしまう。アガサの、そしてワイス家の過去とは?


 去年は『コズモポリス』見逃したし、息子ネンバーグの『アンチ・ヴァイラル』もまだ見ていないのだよね。まあ今作はえーっ、パティンソンが主役?となってしまった前作に対して、ジュリアン・ムーアミア・ワシコウスカジョン・キューザックなど豪華キャストが並びましたよ。舞台はハリウッド!


 若くして死んだ女優の母の幻に悩まされるジュリアン・ムーアが、その母の役を演じる映画への出演をアプローチする。一方、父母のプロデュースのもと若くして名を成した子役が、薬物の使用を暴露され、キャリアの危機に陥る。共に不安定な精神状態になった二人を襲う幻覚……いや、それは本当に幻覚なのだろうか?
 夢か現か。妄想や幻覚を描いているのではなく、ジュリアン・ムーアが死を知っているキャラを、他の面識のない子役が目撃するところが、なんとも落ち着かない印象を残す。ハリウッドそのものが、夢魔の住む異界と直接つながっているような不気味さ。欲望が渦巻き、薬物、殺意、セックスが乱れ飛ぶ世界。水はまさにあの世の入り口のようだし、炎もまた狂気を孕んで人を焼く何らかの意志の象徴のようである。


 まさにクローネンバーグ、という感じだが、一方で親子や姉弟など血縁の濃さゆえの悲劇も次々と生まれる。生の感情がベースになった上に怪奇ムードが上乗せされた感覚がより映画を濃密にさせてますね。
 気持ち悪く、落ち着かない据わりの悪い心持ちになってきて、今のあれは何だったんだ……と思ってしまうことの連発。いいね!


 エゴ全開のジュリアン・ムーアはもちろんなのだが、子役は憎たらしいし、その親のジョン・キューザックとオリヴィア・ウィリアムスの人間の小ささも素晴らしい。
 ミア・ワシコウスカの不安定に落ち着いてる感覚も不気味。顔に火傷を負い、タイツと黒手袋で肌を隠す姿から凄みのような気配さえ漂ってくる。
 それに対し、ロバート・パティンソン君のあの存在感の薄さはいったいなんなのだろう……。あの色もの丸出しの宇宙人役はいったい……。いや、ああやって半端な役者やって脚本書くとか言って何書いてるかも定かではなくて、運転手したりセックスのお相手したり、そういうメインストリームの周囲を衛星のように回っている人種がハリウッドにはいますよ……という表現なのかもしれないね。
 ジュリアン・ムーアゴールデングローブ賞おめでとう!と思ったら、この映画ではなかった。まあこちらの大熱演も込みでの受賞だということにしておこう。こっちはミュージカル・コメディ部門だったしな……。

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