”嵐の中で輝いて”『ファイヤー・ストーム』


 中華映画祭り!


 頻発する強盗事件を追う香港警察特捜班のロイ刑事。主犯と目する男を銃撃戦で追い詰めたと思った直後、交通事故によって取り逃がす。事故を起こしたのはロイの幼馴染で出所してきたばかりのトー。ロイは、彼もまた強盗団の一味ではないかと疑うのだが……。


 さて、二本まとめて地雷だったらどうしよう、と思っていた『ドラゴン・フォー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141220/1419051262)がまあまあ楽しめたので、最後の一本に突入。アンディ・ラウと中華映画祭りと言えば、快作『ゴッド・アイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140107/1389096517)がありつつ、それを帳消しにしてしまった最悪映画『ゴールデン・スパイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140108/1389182072)もあるわけで、非常に危険な匂いが漂う。特に予告編のかなり大味な雰囲気が気がかりでな……。


 が、観てみると、まあまあ普通に練ってあって一安心しました。アンディ・ラウは正義感溢れる警察官……なんだが、フー・ジュンさん率いる強盗団に煮え湯を飲まされ過ぎ、全然証拠をつかめないのに苛立ちまくっていて、その義憤のあまり違法捜査に徐々に手を染めていく男。
 一方、もう一人の主役的人物にラム・カートン。ムショから出てきて彼女に出迎えられ、堅気の仕事を世話してもらって……その裏で、全然懲りずにフー・ジュンの強盗団に即加わってしまう男。
 旧い友人で、かつて柔道で競ったこともあるこの二人の男を対比させながら物語は進む。限りなく善に近い立場にいながら悪に手を染める男と、悪に属しながらもぎりぎりのところで善に惹かれる男。まあ顔のタイプの違いと言えばそれまでだが、ラム・カートンはやっぱり悪役なんであった。四年もムショに入ってたにも関わらず、その前から付き合ってた彼女は彼のことをずっと待っていてくれた……のだけれど、息を吐くように嘘をついて強盗をやり始め、咎められても反省の色なし。前に捕まったのも強盗なんだが、まったく葛藤もなくすぐに戻ってしまうあたり、もう人格が破綻しているようにしか見えない。この強盗団のメンバーは皆、人情味のないサイコパス的な描写で統一されてますね。しかし、あまりに彼女に怒られ、妊娠したけど別れると言われ、ついに強盗団を裏切る。が、このあたりもアンディ・ラウに身分の保証を迫ったりと、実に打算的。このあたりがこの映画ならではの持ち味と言うか、人情物に走らないロジカルな部分として面白い。
 潜入捜査ものの変形ストーリーということで、アンディ・ラウが最近得意の険しい顔をしっ放し。話が進むにつれてじわじわとディティールも過剰さを増していく。


 途中の柔道対決や、予告でもあったビルから落ちながらの戦いなど、香港映画らしいケレン味もあるのだが、クライマックスにはそれが落ち着くどころか、逆に香港の街が大変なことになっていくあたりもいいですね。台風が来る、というのが壮絶クライマックスの隠喩になっているのだが、実際に作中でも台風が来ているのにクライマックスで物理的な影響はなかったのはご愛嬌。


 心配しながら観に行った割には面白くて良かった。これで年末アンディ・ラウの苦い思い出は払拭できました!?

名探偵ゴッド・アイ [DVD]

名探偵ゴッド・アイ [DVD]

ゴールデン・スパイ [DVD]

ゴールデン・スパイ [DVD]