”あの列車に乗って”『天才スピヴェット』


 ジャン・ピエール・ジュネ監督作。


 モンタナの牧場で暮らす一家。10歳のスピヴェットの双子の弟が事故で死んで以来、家族の間にはどことなくぎくしゃくした空気が漂っていた。それを感じていたスピヴェットに、スミソニアン博物館から電話がかかってくる。彼の発明がベアード賞を受賞したというのだ。家族に黙って、スピヴェットは一人でワシントンに向かうのだが……。


 あ、そう言えばオレ、『エイリアン4』以来、この監督の映画、観てないや。『アメリ』『ロング・エンゲージメント』『ミックマック』、全部スルー。


 若干10歳ながら数々の発明もものにし、論文も発表している天才、スピヴェット少年。彼の元に、画期的な発明をしたから賞を受賞しに来い、との連絡が。しかし、彼は直前に起きた弟の死に対し罪の意識を負っていた……。
 この賞をもらいに旅することと、弟の死は直接関係ない。スピヴェット君の発明に父も母も姉も別に関心がない。父はカウボーイライフ、母は虫の研究、姉はアイドルになることにそれぞれ夢中で、スピヴェット君は一人でこっそり旅立つことに……。


 この家族はあまりベタベタしないマイペース一家で、もちろんスピヴェット君自身も己の研究に没頭してしまうタイプ。しかしながらやはり子供だから甘えたい気持ちも強く、それは日々の言動の端々に覗いているし、まして弟の死に責任を感じている今はなおさらである。が、両親がマイペースを貫徹しているため、自らの性分も手伝って素直にそれを言い出せない。悲劇に見舞われたにも関わらず、一見家族内には何も問題が起こっていないように見えるのだが、実はひずみが生じつつあったというお話。


 まあこの両親が、父はカウボーイ、母は昆虫学者ということで、常々我が道を行く人たち。弟の死以前と以後が混在して描かれ、どちらも淡々として見える。それは、残されたスピヴェット少年から見た姿であり、内心にはそれなりの葛藤やショックがあるのだが、子供の目線からはそれが理解できていない。


 特別、人非人演出がされるわけではないので、いい大人であるこちらからは、不器用だが情のない人たちではないことは明白なのだが、この時ばかりはわかりやすい愛情を求めたスピヴェット君は、誤解に誤解を重ねてしまうのだな。旅立ちのタイミングで「無視された」と思うシーンがあるのだが、それはいくらなんでもないだろう、と思っていたよ。


 悪くはないが、童話の映画化のようで、家族の問題に切り込むものとしては薄味。銃社会問題に切り込むわけでもないしな。ただ、親視点を薄くして子供視点で徹底したことは大きな効果を上げていて、冒険物テイストも込みで、子供映画、ファミリー映画として良いものに仕上がっているとも思う。
 父親の資質を引き継いだのは弟で、スピヴェット自身もそう理解しているのだが、その人に相談せずに何でも黙ってやってしまう行動力は、やはり両親の独立独歩の精神を受け継いでいるようにも思える。列車シーンの寂しさと高揚感のないまぜになったような感覚は素晴らしい。


 観ている間はピンと来ていなかったが、あれこれ考えてるとじわっと良くなってくる映画でありました。映像も楽しいですよ。

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