”夜の家で自動車のガラス壊して回った”『ショート・ターム』


 ブリー・ラーソン主演作。


 行き場をなくした未成年者を短期間保護する施設で働くグレイス。仕事で忙しい日々を過ごしながら、同僚のメイソンと密かに一緒に暮らすようになっていた。ある日、自分の妊娠を知ったグレイスは、メイソンに黙って堕胎の予約をする。そこには、誰も知らない過去の存在があった……。


 何だかわからないが、とりあえず評判がやたらといいらしい映画、ぐらいの予備知識で行ってきました。タイトルの『ショート・ターム』は施設の名前。親の虐待や育児放棄で行き場のない子供が入る施設の一つが舞台になっている。


 たくさんの子供たちと、数名のスタッフ。スタッフ側はなんとなく見たことのある役者が揃っているのだが、どこで見たかはイマイチ思い出せないという、絶妙なレベルですね。
 スタッフのリーダー格である主人公を演じるブリー・ラーソンというのは……あ、『ドン・ジョン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140402/1396432878)の妹ちゃんか! あれでもやたらとクールなイメージだったが、今作ではプロフェッショナルな雰囲気と年相応の未熟さが同居しているキャラクターを、完璧な演技で見せる。
 自らも「過去」があることを序盤から少しずつ匂わせつつ、子供たちとプロとして距離を取りながらもどうしようもなく引っ張られていくものも持っている、という難しい役。単に職業としてこの仕事をしているのではなく、まさに自分の存在を賭けているのだな。
 彼女と密かに(?)付き合っているヒゲの同僚も、おちゃらけて楽天的なようでいて、過去にそういった体験を抱えていることが途中で明らかになり、それゆえに彼女の妊娠が発覚した直後の、互いの逡巡と、「僕たちはきっといい親になれる」という言葉が重みを増してくる。親にされたこと、されなかったこと、それら全てを、いつか自分の子に繰り返す恐怖を、果たして乗り越えられるのか。側から見ているだけの人間には「大丈夫だろう」と思えても、家族という密室の中で繰り返されてきたことは、深く心に刻みつけられている。


 冒頭から新人スタッフがこの施設にやってくる。彼は特にそういった心的外傷を抱えているわけではなく、イノセントな観客に近い立ち位置にいる。自分の経験のため、「恵まれない子供たち」のため……。経験がなく、偏見も抱いているが、善意もある存在として登場する。彼の行動や彼に対する説明によって、こうした施設にいる子たちの実態が無理なく観客にも伝わるようになっている。


 この辺りの人物配置が、スタッフ側だけでも絶妙で、さらにそこに子ども側の描写まで加わってより重層的になってくる。スタッフそれぞれ、どこかしら入れ込んでしまう子供がいて、そこには必ず自分の体験と重なる何かがある。


 マーカス君の魂のラップがすげえ! まさに渾身のdisだ! しかしこの後、ちゃんと楽しいラップもして、「いやいや、ラップというのはdisばかりじゃないんですよ」とバランスも取っている。この楽しいラップシーンもまた秀逸で、マーカスと新入りが仲直りしたこと、マーカスが実は男女の機微に敏いことも、まとめて情報としてさりげなく提供し、後々の展開に効かせてくる。


 小道具の使い方も上手くて、何気なく印象付けてるシルバニアファミリーが良かったですね。そして、主人公の乗る自転車が、独立した関係性、孤独の象徴のように語られるところも面白い。それに対し自動車は、家族、そして父親の象徴でもあるのだな。それがぶち壊されるシーンが印象的。
 全編、ラストも含めて手際が良すぎるぐらいに良いのがむしろ欠点じゃないか、ってぐらい完成されている。デリケートな素材だけに、細心の手つきで作られ、安直な着地を決してしないように心掛けられていることも見える。生き延びた子供たちは、暴力を振るった者たちと和解する必要もないし、許す必要もない。かと言って、自分のリスクも大きいので、実際にバットで殴るまでのこともない。離れて生きていけばそれでいい。


 重い現実と共に、ささやかな希望を提示して映画は終わる。時に車に乗り、そしてまたある時は自転車に乗って生きていこう。

21ジャンプストリート (字幕版)

21ジャンプストリート (字幕版)