”誰もいなくなったわけ”『サボタージュ』(ネタバレ)


 シュワ主演作。


 DEA最強の特殊部隊を率いるジョン・ウォートン。「ブリーチャー」と呼ばれる彼は、8人の部下と共に麻薬カルテルのアジトに乗り込み、組織が蓄えていた大金の内、1000万ドルを密かに盗み隠す。だが、分配すべく隠し場所に向かったところ、金は消えていた……。それを皮切りに、チームのメンバーが一人、また一人と殺されていく……。犯人はいったい?


 『ラストスタンド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130506/1367752278)、『大脱出』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140116/1389850471)と、出る映画出る映画大コケしているシュワちゃん、そろそろ崖っぷちかと思われた今作もまた大コケ。さらに新『ターミネーター』にも早くもウンコの臭いが漂いつつあります。もう『エクスペンダブルズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141121/1416568563)シリーズにちょっとだけ出ている人、になった方が無難なのではないか……とさえ思わせる低迷ぶり。まあしかし、興収がダメでも、中身が面白ければいいじゃないの、と思うのですが、またその中身がなあ……。


 アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』が原案……とあるが、多分、当初の脚本にあった面影は、もはや原型も留めていないのではないか、という気がする。これで原案なら、多人数が減っていくサスペンスものは、だいたい『そして誰もいなくなった』原案になっちまうわ。


 シュワ率いるDEAチームが、手入れの最中に麻薬組織の持ち金から1000万ドルちょろまかす……というところから物語は始まる。このオープニングのアクションはなかなかタイトで、特に女の着替えのカットを挟み込むことでもたついてる印象を与えずに時間経過を見せていくあたりが上手い。ギャングを皆殺しにして、残った金も吹っ飛ばす! 爆風を背に脱出するシュワ。しかし、下水道に隠した金が何者かに盗まれ、シュワ以下のチームは金を盗んだ容疑で謹慎状態に……。あれっ、残った金は爆破してたのに、何で足りないのがバレているのだろう。
 謹慎から復帰したのも束の間、メンバーが一人一人、何者かに殺されていくという事件が起きる。組織の復讐か? あるいは金を盗んだ何者かの犯行か?


 ここらあたりから、事件を追う捜査官としてオリヴィア・ウィリアムズも参戦。しかしこの人は、当然金が盗まれた云々の真相を把握してないので、観客よりかなり出遅れた位置にいる。チーム同士のお互いへの疑心暗鬼を描くのではなく、この外部の捜査官からの視点で話を進めてしまうので、どうもまだるっこしい。なぜか映画の大半は「殺人事件の謎」を追うことに費やされ、「金を盗んだのは誰か」ということにウエイトを割かないのである。普通に考えたら、金を盗んだ誰かが独り占めのために他のメンバーを殺しているんじゃないか?と思うのだが、それが口にされるのは、三人ほど殺されてからやっとなのである。
 そもそも第一の殺人は、住んでるトレーラーごと電車に轢き潰される、という手口で行われるのだが、この捜査官、目が覚めたらもう電車が迫っている、という死に方をしていて、別段、金の在り処を誰かに聞かれたりするというシーンもないのだよね。うーん、なぜ犯人は問いたださずに殺したのだろう?
 さて、リーダーのシュワちゃんは、大統領にも表彰された麻薬戦争の英雄であり、妻子を殺された過去を持つ、謎めいた人物として描かれている。……んだけど、とりあえず麻薬組織から金を奪った汚職野郎であることは間違いないし、オリヴィア・ウィリアムズに協力するふりをして、実は何もしていない。とりあえず仲間の心配はしているようだが、非常にぼんやりとした描き方をされている。


 どうも脚本自体が、オープニングで起きた大事件である、チームで盗んだ金がその誰か一人にまた盗まれた……ということに、なぜか触れまい触れまいとしているように見える。主役でリーダーのシュワちゃんが見つけ出せばいいんじゃない?と思うのだが、なぜか彼は「部下のために……」と言いつつ何もしていないのである。


 オチをバラしてしまうと、それもそのはず、金を独り占めしたのはシュワちゃんなのだな……。そりゃあ自分で探すもクソもない、知ってて隠してるんだから……。しかし、殺人をしていたのは彼ではなく、ミレイユ・イーノスとテレンス・ハワードの二人が裏でデキていて、「金を奪った奴に復讐する」ために殺しまくっていたことが判明……えっ、いやいや、そこは金を取り戻したいからじゃなかったの。金も手に入らないのにあんだけ殺しまくって、何の得があるの。結局偽装工作も虚しく、バレてるし……。そして、部下の裏切りを知ってショックなシュワ……いやいや、おまえのせいでしょ!


 シュワちゃんは、妻子を殺したマフィアに復讐するための裏工作費として金が必要で、全部自分で独り占めしていたのだ……って、全部こいつが悪いんではないか。「部下のために……」みたいなことを言ってるが、いの一番に裏切ったのはこいつだし、信頼があるなら、頭を下げて「お金下さい」と言ってれば良かったのに。全てがバレたことを知ったシュワちゃんは姿を消す……このシーン、走って逃げるとドタドタと遅すぎるからか、いつの間にかテレポートしたみたいに消えてるから笑ったぜ。


 うーん、シュワが全て糸を引いていて殺しも指示している、復讐に囚われて悪に落ちた存在という設定にしたほうがまだまとまってたんじゃないかな。これもまた、例によって例の如く、シュワちゃんを悪者にしないために無理やりひねくったかのような脚本に問題があり。
 おかげで、超かっこつけてるエンディングも、あんだけ部下を死なせて1000万ドルもかけて、単にバーで闇討ちしてるだけかよ、と突っ込まざるを得ないのである。


 せっかく裏のある切れ者を演じようとしたのが、まあ演技力はともかくとして、脚本に壮絶に裏切られてむしろダメな人になってしまったあたりが悲しいというか、ええもんとしてカッコつけたかったなら自業自得というか……。

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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