"失われた楽園"『デビルズ・ノット』


 実在の事件の映画化。


 93年にメンフィスで起きた、三人の児童の殺害事件。靴ひもで手足を縛られ暴行された彼らの遺体は、デビルズ・ノットと呼ばれる地の川の中から見つかった。初動捜査に失敗し、容疑者を絞りきれないでいた警察は、三人の少年たちをついに逮捕する。事件に悪魔崇拝の痕跡があると主張しながら……。捜査の内容を疑う調査員のラックスは、公選弁護人らに協力し、彼らの無実を立証しようとするが……。


 まさに現代の魔女狩りの様相を呈した、実在の事件。韓国映画の『カエル少年失踪殺人事件』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120501/1335796039)を彷彿とさせるが、今作の被害者である子供たちは、縛られた遺体として水中から発見される。その強烈なビジュアルを皮切りに、容疑者探しが始まり、悪魔崇拝者とのレッテルを貼られた三人の少年たちが逮捕される。


 英国王ことコリン・ファースが調査員として、冤罪と思われる三人の容疑を晴らそうとするのだが、裁判は強烈な偏見のもとで進み、証拠とも思えない証拠までが採用され、一方で弁護側の主張は認められない。ひたすら裁判を決着させることばかりが優先され、その決められたストーリーに沿って進行されていく……。
 90年代に起こった実話であり、今なお真犯人は明らかにされていない事件なので、まあそうなるかなとは思ってたが、まったくオチはつきません! いくつもの謎が投げっぱなしで終わり、完全なフィクションなら怒り出すレベルなのだが、あくまで実話なので……。
 冒頭のショッキングなビジュアルから結構期待したんだが、その後、あまりに山場がなく進行するので、ちょいとダレてしまった。さらに、突然ふっつりと終わって、残りはテロップで解説されるという……。
 ちょっと真面目すぎる内容で、それは実話に対するアプローチとしてやむをえないことでもある、のだろうが、もうちょっと盛り上がる展開がなかったものか。いや、すでにこの事件はドキュメンタリー映画『パラダイス・ロスト』でも描かれていて、そこには血も凍るような疑惑や、容疑者たちの感動的な発言もあるのだが……。さらには、「釈放」という大きな山場だってある。そういう解答や結果を、絶対に提示したくなかったのかもしれないが……。
 事件に関して詳しくは、町山智浩氏の著作『USAカニバケツ』を読もう。この『パラダイス・ロスト』も観てみたいんだがなあ。


 リース・ウィザースプーンデイン・デハーンも出ているが、役柄のせいか精彩を欠いた感あり。かといって、アレッサンドロ・ニヴォラやケヴィン・デュランドが超熱演というわけでもないしな。重ねていうが、そういう「インパクト」を廃そうとした結果なのだろうが、それにしてもこれでは薄味すぎるのでは。実際の事件のあらましと、そのおぞましいまでの裁判の進行に関しては過不足なく伝えられていると思うが、もう一声欲しかったところであった。

カエル少年失踪殺人事件 [DVD]

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USAカニバケツ: 超大国の三面記事的真実 (ちくま文庫)

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