”贖いを賭けて"『泣く男』


 『アジョシ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111009/1317816944)監督の最新作!


 幼少の頃、母を失いアメリカの砂漠に捨てられた、韓国籍の少年ゴン。マフィアに育てられた彼は、殺し屋として成長していた。だが、ある任務の最中、誤射により幼い少女を手にかけてしまう。酒に溺れるゴンに下された次の命令は、故郷である韓国へ向かい、少女の母親を殺すこと……。


 前作は俺と同い年のウォンビンが主演でしたが、今回はちょっと年上、チャン・ドンゴンが主演。一番印象的だった過去作は……なんだ、『PROMISE』か? 牛と競争する珍作。去年は『危険な関係』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140115/1389787126)も良かったですね。
 今作の彼は、アメリカに出張中の殺し屋役。仕事中に、幼女をうっかり射殺したことがトラウマになり、その母親を殺せとの指令をついにブッチしてしまう、というお話。自分の所属する組織と、取引先、双方から狙われることになる。前作『アジョシ』は、主人公自身が終盤まで銃器を持っておらず、韓国の街中ではそれほどぶっ放すこともなかったのだが、今作は逆にそこをこだわり、やたらめったら撃ちまくり! ライフルから機関銃まで大量投入で、多分、ガンマニアはたまらんのだろうな。何せ、今回の敵は洋物ですから、輸入物の武器が大量です。


 ところで、海外市場を意識したのか、台詞は韓国語と英語のちゃんぽんで、冒頭もアメリカが舞台……。なんだが、黒人女性シンガーが出てきて歌いだすのは「スムースオペレーター」……って、いや知ってる曲だけど、このセンス古くない? アメリカでは、これを正面切って歌う店があるの? 韓国の偽洋物バーか何かかと思ったら、マジにアメリカという設定なのですな。まあロケ地は知らんけど……。白人の殺し屋も襲ってくるのだが、うーむ、なんだこのチンピラ然とした感じの弱そうさは……。『ゴジラVSビオランテ』の工作員の方がまだ強そうだったような気がする(言い過ぎ)。


 ヒロインは『火車』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130209/1360304716)のキム・ミニで、家庭と娘より仕事を選んでしまった女という立ち位置。それゆえに、娘の死によって自責を感じて苦悩する。それゆえに、殺した側であるチャン・ドンゴンの自責ともシンクロする……のかと思いきや、この二人はついに顔を合わせないから驚き。これはラストの展開に向けての伏線で、最後の最後で爆発するように設計された、かなり野心的な構成であると思う。狙いははっきりわかるし、なかなか良く出来ている。
 ……が、そこのところのトリッキーさにこだわったがゆえに、普通に二人が顔合わせた場合のドラマと比べて、逆に中盤のエモーショナルさに欠けるところがあるのだな。主人公が序盤から大きな罪悪感を背負い、それに対する贖罪のために女を救おうとするのだが、良くも悪くもその考えが首尾一貫していて、ストーリー上のキャラクターに揺れがないために、「ここで組織を裏切る? 裏切る? やっぱり裏切らない? 裏切ったああああ!」という一番の盛り上がりになるはずのところが、もう一つ爆発しない。ヒロイン側もその瞬間を目撃しないから、何が起こってるのかよくわからないまま動いてる存在になっちゃうし、どうも感情の置きどころがずれてしまい、こちらも傍観者的に見てしまったのであった。


 その点、単なる隣の質屋のおじさんで、関わる大きな動機がないはずなのに、なぜか首を突っ込んでしまう『アジョシ』の方が、不自然な話のようでいてその感情の切り替わりの部分がうまく処理されていて、すっと入り込めたのだよね。贖罪という大きな動機があって関わる今作では、描写の濃淡が前作とは違うバランスになるべきだが、主人公とヒロインに距離感があるままなので、どうしても密度の濃い話にならない。


 前作のナイフ殺し屋みたいな、雰囲気のある強力なライバルが欲しかったなあ。やっぱりあの白人殺し屋が全ての元凶ではないか。三人いればいいというものでもないし。ラストの『ダイ・ハード』オマージュっぽいビルでの決着戦ももうちょい面白くなりそうだったのにな。


 重ねて言うが、野心的な構成をした結果、処理が甘く滑ってしまったということで、非常にもったいない印象。アクションは前作にない要素と同じ要素を組み合わせていたし、韓国映画には珍しくチェ・ミンシクに頼らない(笑)、イケメンアクションの旗手として今後も頑張っていってもらいたいのだが、ちょっと前作で打ち立ててしまった評価・人気のハードルが高かったな……。部分的には超えているところもあるのだが、シンプルなお話の方が完成度は高くなるといういい見本か。


 まあまあ、行き詰まったら、もう三年後ぐらいに『アジョシ2』撮ったらいいじゃん! キム・セロンちゃんもいい感じに成長してきているし、今度は質屋のおじさんとついに恋愛関係になってな……!

アジョシ スペシャル・エディション(2枚組) [Blu-ray]

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危険な関係(字幕版)

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