”時の過ぎ行くままに”『ジャージー・ボーイズ』
クリント・イーストウッド監督作。
後に音楽界に伝説を打ち立てた「フォー・シーズンズ」。ニュージャージーの名もなき若者だった彼らが集まり、栄光をつかむまでの軌跡が、今、明かされる。その影には家族との軋轢や、メンバー同士の裏切り、複雑に絡む金など、様々な問題があった……。
まだまだ新作を撮り続けているイーストウッドさん。毎度毎度さすがの安定感。今作は音楽シーンを描いたミュージカルの映画化ということで、題材は鉄板。キャストは舞台の役者をそのまま起用だそうで、クリストファー・ウォーケン以外、ビッグネームも不在だが、そこがどう出るかな?
いくつか名曲は知ってるけど……ぐらいの印象だったフォー・シーズンズ、その若き頃から殿堂入りまでの、約三十年間を語るお話であるが、すんなり入り込める。クリストファー・ウォーケンぐらいしか知っている役者がいないのだが、オリジナルの舞台のキャストをそのまま起用しているのだな。
とりあえず演技が素晴らしすぎるのだが、とりわけ主演が、舞台を生鑑賞したところで絶対に見えないような細かい表情の演技を顔芸レベルでやっている。子供がいつの間にか生まれて急に大きくなっていたり、ともすれば時間軸が急に飛んで心情の変化を掴みづらいところまでも、端的に演技で見せてくる。プラス、画面のこちら側への語りかけで、ややこしい心理はさっと説明してみせる。
メインアクトは当然いいのだけれど、脇の全然名もない人たちも、画面の隅でいい顔をしているのだな。『ヒアアフター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101210/1291947750)で、ヒロインが溺れて助かったシーンで、ピンも合ってない側にいるおっさんがすごく素敵な笑顔になっているところが印象的であった。今作でも、後に大ヒットを飛ばす名曲の初披露で、ステージに拍手する観客の皆さんがみんな「ああ〜、すごいもの聴いちゃったよ!」という笑顔をしている。イーストウッドは、役者にはかなり好きに演じさせるタイプだというが、こういう大勢のシーンでもムード作りが上手いのかな。
序盤の泥棒のシーンのダイナミックさも、何でもないようでその後のステージに匹敵するレベルで、アクションものを見たなあという満足感を与えてくれるところもびっくり。
演技的にはやっぱりフランキー役の人が印象に残ったが、キャラ的にはボブ・ゴーディオが良かったね。いや、作中じゃ一番年下のくせに全然ぶれない人で、若い頃から契約をきっちりやって金を溜めて家族もちゃんと持って……って、トミーなんかと比べても面白みがないのだが、それが逆にカッコいいではないかね。作曲がまた素晴らしすぎし……。
「え? ミュージカル?」と、ちょっと唐突にも感じられる企画だったが、やはりイーストウッドが、自ら生きてきた時代の感覚を切り取り、古き良きジャージーの価値観を正面切って描ける題材であったことがよくわかる。序盤の、童貞に対する女の口説き方の伝授が、言ってるキャラは全然違うのに、『グラン・トリノ』と同じ呼吸なのが微笑ましい。
同じ人が十六歳からずっと同じ役であったり、子供が急に増えたりでかくなってたりと、時間経過とか、歳の描写が大胆というかアバウトだったが、そこはもう八十歳越えの御大には大した問題ではないのだろう。
毎度毎度レベル高いイーストウッド映画の唯一の弱点が、御大自身の格調高いような気の抜けたようなスコアなのだが、今作はそれを廃し、名曲をバンバン使っているのだから、もはや無敵である。
最後はきっちり原曲を使ってミュージカルで締めるが、ラストで突然若返るところは、映画的マジックですね。全編堪能できました。
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