”銀河の歴史がまた1ページ”『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』


 マーベルコミック映画がまた一つ。


 母の死んだ夜、9歳のピーター・クイル少年は、謎の宇宙船によって遥か銀河の彼方へと連れ去られる。そして二十数年……宇宙海賊に育てられ、トレジャーハンターとして自称「スター・ロード」と名乗るようになっていたクイル。彼の手元には常に、死んだ母の残したミックステープとウォークマンがあった。ある日、謎のオーブを手に入れ換金のためにザンダー星を訪れたクイルだが……。


 全然関係ないように見えたが、今作も『アベンジャーズ2』に関連してくるとのこと。主演はクリス・プラット……誰だ? 『her』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140707/1404738634)の同僚、『マネーボール』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111011/1318040695)の元キャッチャー、『ゼロ・ダーク・サーティ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130221/1361458559)では……わからん! そんな無名の男が主役。残りのメンバーも人外ではないか。


 さてオープニングは、この主人公の子供時代から。ガンで闘病していた母親がついに危篤らしく、今際の際に立ち会う少年。父親がどこか遠くに行って行方知れずらしきことと、カエルを殺した同級生と喧嘩をしたという主人公の性格を示すエピソードがさりげなく語られる。母と子の最後の場面……まあわかりやすいんだけれど、監督ジェームズ・ガン、ここがなかなか泣かせる。
 「お祖父さんの言うことを聞くのよ」と母親が言うのだが、ここで爺さんの口の挟み方が絶妙に空気を読めてなくて、ここだけ『SUPER!』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110819/1313752791)でもあった会話劇の妙を感じたところ。爺さんも娘が危篤で、正直孫のことばかり考えていられず自分もショックなのだろうが、それにしてもこの急かしっぷりの何とも言えずずれた感覚。これはちょっと今後関わり続けていけない、何か気の合わない人間なのではなかろうか、ということを印象づける。そして、事実としてこの爺さんは、このあともう出て来ないのだな。
 そして「私が死んだら開けて」と言って、母親が誕生日のプレゼントを渡す。主人公はウォークマンと共に「awesome(最強) mix vol1」と書かれたテープを持ち歩いているが、いや……このプレゼントの包装のサイズを見たら、中身は完全にバレバレなんですが……。
 このオープニング以外、主人公のバックボーンはほぼ語られない。この後、宇宙にさらわれて、二十数年の時を経て、主人公は中二病の入ったお調子者に成長しているのだが……この性格付けはいったいどこから来たのであろうか。ケビン・ベーコンについて熱く語る心性はどこから生まれたのか。それはやっぱり語られなかった少年時代から来ているであろうし、当然、この母親から来ているのではないかな。
 ガンになって瀕死の弱々しいイメージについ引っ張られてしまうが、この母親は正直、かなりボンクラな人だったのではないだろうか。選曲のセンスもさることながら、自らテープに「最強」と書いちゃうマインドは、実は相当にダメな人だった感がひしひしと感じられる。主人公の「スター・ロード」とか自称しちゃうセンスは当然、母親の影響で、かつてケビン・ベーコンの素晴らしさを彼に語ったのも、たぶんこの人だね。
 健康だった頃は、「ダンスバトルよ!」とか言っちゃうような、実に困った人だったに違いない。「正義感」は父親譲り、ボンクラマインドは母譲りであったのだ。


 さて、そんなことをつらつらと考えてしまったのだが、どうにもこの映画に物足りないのがそのバックボーンの描かれなさで、もう少し子供時代を掘り下げたり、さらわれてから成長するまでを描いたら、よりボンクラ野郎にとって「沁みる」映画になったはずだと思う。ファミリー向け、ジュブナイルとしてのマーベル映画のフォーマットに乗せるために省かれたのかもしれないし、それはそれで客層を絞った結果なのであろうが、やはり『SUPER!』の監督の次回作としては、もう少し違うものを期待したかった。同じく『スリザー』も、宇宙船のデザインにのみわずかにその形骸を留めたのみであった……。


 宝玉をめぐるドタバタや、大げさなアクションなど、中盤までその面白くもなんともないストーリーがどうにも退屈で眠気を催した。顔に色を塗っただけで「宇宙人です」と言っちゃうセンスも、コミック通りと言え、このCG時代にそのまま出されたら笑っていいのかどうなのか、微妙な心持ちになるしな。一通りのキャラ紹介が終わって、作戦立ててさあ終盤、というところから、やっと段々と面白くなってきた。なんだかんだで関係なかったはずの人たちが集まって協力し、巨大な敵と戦う展開は面白い。


 さて、『マイティ・ソー2』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140211/1392122824)でも感じたことだったのだが、あの映画の悪役って誰だっけ? って言うかなんだったっけ? いや、オタク的には色々と設定があったのだろうが、あの「なんか特殊メイクした悪役」としか覚えられず、それ以上の存在感がまったくなかったよね。今作の悪役も「超人だ!」とか語られるのだけれど、名前まで地味だし、全然存在感がない。主人公たちが輪をかけて弱そうなのでなんとか成立しているが、造形にも全然魅力がない。
 ……が、今作では、「ダンスバトル」において「えっ!?」となったその悪役の顔があまりにも自然で、突然納得してしまったのである。いくら名優で存在感があったとしても、ミッキー・ロークロバート・レッドフォードだったら、ダンスバトルを受けてたってしまうかもしれない可能性が、どんなキャラに描かれていてもわずかながら発生してくると思われる。「ダンス」→「全くの異文化」で狐につままれたような顔をして全然話が通じない……というあの一瞬を演出するためには、ああいう人間味も何もない無個性な悪役でないとダメだったのだね。


 そんなこんなでクライマックスは結構笑ったので、まあまあいい映画でありました。ラストも名曲の使い方がずるいぜ! お母さんのボンクラ魂を思いつつ見ると泣けるのである。でも「チェリーボム」は『ランナウェイズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110328/1301238090)がやっぱり映画ではそのものずばりなので、あの使い方はアウト。

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