”今は歌おう"『怪しい彼女』(ネタバレあり)


 『トガニ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120826/1345874382)の監督の最新作で、『サニー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120531/1338461888)の少女のイム・ナミ役のシム・ウンギョンが主演。


 大学教授の息子を持つ70歳のマルスン。シングルマザーで息子を育て上げたのが誇りだが、溺愛が過ぎて息子の嫁についつい口出しして追い詰めてしまう。彼女が倒れたのをきっかけに、老人ホームに入ることになってしまったマルスンは、すっかり落ち込んで街を歩いていたところで、「青春写真館」なる謎の店にふらふらと入ってしまう。「青春時代をイメージした写真を取れば50歳若返る」という文句を真に受けてはいなかったマルスンだったが……。


 『サニー』のハイライトシーンの一つが、あの婆さんの霊が取り憑いた真似をするシーンだったわけだが(テレビドラマをネタにするのも『サニー』に続いて登場。定番になっているのか?)、それをずっとやってると思えばいいやね(乱暴)。作中で「ブロッコリー」と呼ばれるパンチパーマの70歳の婆さんが、『トガニ』の校長がやってる「青春写真館」で写真を撮られて20歳に若返ってしまう。必然的に20歳の役者が婆さんの演技をしなければならないのだが、肉体が若返ったにも関わらず歩き方がなかなか変わらないあたりや、年食ったせいで一切の遠慮がなくなっていて、声や表情、態度を周囲に合わせて作るということがないところをシム・ウンギョンが大熱演。脚本や演出の徹底ぶりも合わせて、婆さん演技を貫徹する。しかし成長したなあ……。もう大人ですね。


 家族構成は婆さんの息子とその妻、孫二人。婆さんは、苦労してきた時代に背負ってきた息子と、若くして死んだ夫に似てる孫の男の子の方がかわいくてしようがなく、嫁と女の子の方には扱いがぞんざい。基本的に婆さんの視点から撮られているのだが、韓国の社会構造も含めての話になるだろうが割と息子もマザコンっぽい。老人問題の研究をしている大学教授という職業柄もあってか、そのモラル的に老人には優しく……という価値観を抱いているようにも見えるが、自分の妻と板挟みの状況になっても妻を優先できないあたり、少々問題ありな人に見える。それが妻が倒れるという結果を呼び、自らの在り方を問い直す……。
 家族関係の変化についての話は、婆さんが過去を暴かれ、嫁さんが倒れたことの責任を感じ、施設行きを受け入れたあたりで、とりあえず一山超えているのだね。これだけでも15分ぐらいのミニホームドラマにはなりそうだが、ここから婆さんが若返り、事態は急展開していくのである。


 ここからはシム・ウンギョンの独壇場で、かつて味わえなかった青春時代の謳歌と、歌手になる夢を再びかなえるという夢に向けて突き進む。孫のやっているバンドにボーカルとして加わり、老人ホームで歌っているところを、音楽プロデューサーに見出されることに……。孫役の人がアイドルグループの映画デビューだそうで、劇場にもそのファンらしき女性客が大勢来ており、顔が映る度にリアクションしていたのが印象的。このあたり、ジャニーズを起用した日本映画とも共通点はあるのだろうが、それよりもあくまで準主役ぐらいの扱いに留め、アイドル出演を最大の売りにするのではなく一要素に収めたあたりが上品でありますね。


 若くして子を持ち苦労してきた女が、人生をやり直す機会を得たら……そりゃあやり直すでしょ、というお話で、その正体に気づいた者気づかない者が入り乱れるギャップが面白い。その中で、登場人物誰もに、何気無く、あるいは目をつぶってきた自分の人生の問題に対しての気づきが訪れることになる。
 クライマックスでは、その新たな人生を棒に振るか否かが問われるのだが、孫が生死の境にあるのに、今は歌おう、と言うあたり、「おいおい」と思ってしまったが、ある意味婆さんらしく命が安くていいですな。徹頭徹尾、気づきはあれど、良い点悪い点含めて誰も根本の人格が変わらないところが、ある意味誠実でもある。
 息子の命と母親の新しい人生を天秤にかけて後者を選択しようとする、子が母に対して抱く罪悪感をクローズアップするのは、この映画の設定ならではだし、そこで母がする選択もまた、今作の肝と言える。


 しかし、徹底的にコメディタッチで、なおかつ主人公の能天気で行動や言動が先に立って深く考えない性格からすると、「新しい人生」についてもそれほど思いつめていなかったのではないかな。これを逃したら人生が終わり、とまで考えてもおらず、どこでどうあろうと自分は自分であり、それを形作ってきた今までの人生の重みに対して、どこかしら無意識に肯定的であった。それこそが女性の強さなのではないか、と思う。
 そうは言ってももったいない気持ちもあるが、そこは「青春写真館」の謎を残し、再来を予感させるラストで昇華されるのだ。
 そして、元丁稚の爺さんの方が自らの人生を悔いており、彼の方が若返った時に、こじらせてやばいことをやりだすかもなあ、と思ってしまうね。ここまで書いて『魔界転生』のことなど思い出したが、やはりこじらせるのは男子か……!

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