”腹が減っているのは今日なのだ”『リアリティのダンス』


 アレハンドロ・ホドロフスキー最新作!


 1920年代、軍事政権下のチリ。ウクライナから移住して来た少年アレハンドロは、両親と共に暮らしていた。共産主義者で権威的に振る舞う父は、アレハンドロを自分のように強く育てようとするが、学校でもいじめられ孤独なアレハンドロは、一人、世界と己の狭間で苦しむ……。



 ホドロフスキーの自伝の映画化……だそうだが、『エル・トポ』しかり『サンタ・サングレ』しかり、やはり同じモチーフを繰り返し映像化する作家なのだね。やたら男、男と面子にうるさい父親と、愛情に溢れているけど抑圧的な母親、その狭間で仮装させられる息子が、その両親のセックスを目撃! 全編に漂う死のイメージや、動かなくなる「手」などもおなじみですね。あとは家畜に群がる貧民……! 明日の水がなくなろうとも今日の飢えを満たそう、という切実さね!


 主人公アレハンドロ少年はもちろん監督の若き日のイメージでもあるのだが、当然今は父親になっている監督は、父親役にも自分を投影していて、その父親を演じているのは実の息子のブロンティス・ホドロフスキー……って、ややこしいな!『エル・トポ』でパンツ一丁で砂漠に放り出された少年が、45年の時を経て今やいいおっさんになっているわけだが、それでも相変わらず親父の映画でチンコを放り出しているあたり、なんとも濃密な親子関係である。
 最近観た『アデル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140425/1398433802)にアレハンドロの孫娘でブロンティスの娘であるアルマ・ホドロフスキーも、主人公のクラスメート役で出ておった。なかなかクールな美少女でしたが、今作には出演せず。それはアレハンドロが女の子には興味ないのか、俺はいくらでもチンコ出すからアルマだけは勘弁してください……とブロンティスが頼んだかは謎ですね。


 実際のオペラ歌手が演じた、歌いっぱなしのお母さん役も強烈で、宗教にもかぶれてるあたりはまったく『サンタ・サングレ』の腕のないお母さんのようである。しかしホドロフスキーの子でもないのに、やっぱり全裸になって聖水まで振りまくあたり、今作のベストアクトを進呈したいですね。
 先日の『オールド・ボーイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140715/1405350511)のでかすぎるボカシと対照的に、今作に施されたボカシは見事に局部をギリギリ覆うサイズ。あれだけ小さいと、逆にその下にあるものは確実にモノホンとわかりますな……。微妙にサイズがお粗末であったあたりもリアルすぎ。


 息子に、「男になれ!」「英雄になれ!」とやたらうるさい父親像だが、それはまさに本人こそがその抑圧とコンプレックスを抱えているのが明白で、後半は病気が治癒して生まれ変わった彼の心の旅が展開される。結局、今度は手の動かなくなる病を背負い、それらによって自分が英雄とは程遠い存在であることを突きつけられ、さらには抑圧者である独裁者に似たパーソナリティを自分が持っていることにも気づかされることとなる。
 自分が何者かに気づいた彼は、家族と共に新たな旅立ちを迎える……というお話は、まあ感動的ですらある。が、先んじて上映された『ホドロフスキーのDUNE』でも、何の仕返しか「英雄になるんだ!」と息子に言われていたというアレハンドロお父さん、いやあ、僕はこんな親子に生まれなくて良かった、なるべく関わり合いになりたくない、と思わせるのもまた事実なのであった。

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リアリティのダンス

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