”「NO」ではなく「YES」”『ミスターGO』(ネタバレあり)


 中韓合作映画!


 韓国の弱小球団ベアーズは今期も絶不調。起死回生のため、人間ハンターと呼ばれるエージェントが仕掛けたのは、サーカスの野球するゴリラ・リンリンの入団だった。ゴリラ使いの少女ウェイウェイと共に韓国にやってきたリンリンは、瞬く間にホームランを量産し、ベアーズを首位争いに押し上げるのだが……。


 まあなんというバカな企画を……と思いましたが、本邦でも一応シネコンでもかかったりしておる。主演はCGのゴリラで、そのゴリラに指示を出す猛獣使いの少女に、ミラクル女子ことシュー・チャオちゃん。うーむ、あの『ミラクル7号』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120327/1332836188)の少年が、ほんとにメジャーなスターになりつつあるのだなあ、と感慨深い。『星空』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120325/1332664607)最高! 『レジェンド・オブ・トレジャー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130717/1374051762)も良かったよ!
 そんな彼女ミーツ韓国映画ということなのだが、吹替で観たせいで言葉の壁をどう乗り越えているのかわからずじまいであった。これはソフトを買えということか……。


 ゴリラがプロ野球選手になる、ということで、無茶苦茶な設定なのだが、いきなりのコミッショナー会議での大もめや、エージェントの男を主役級に据えることで野球の裏のマネーゲームを重点的に描くなど、背景となる設定に可能な限りリアリティを加味。裏でプレイする人間の選手も真剣そのもので(逆にストーリーに絡んでくる選手がほぼいなかったのだが、役者ではない本物の選手を使ってるのかな……?)、それによって逆にゴリラの非日常性を際立たせる。
 ゴリラはフルCGで、話はこんなバカだから、まさにバカの二重の極み状態なんだけれども、一方で下げに下げたリアリティラインをもう一方で上げてバランスを取る感覚が絶妙。CGゴリラなんだからどんな話だって出来そうなものを、「動物と人間はわかりあえない」というギリギリのラインを保つことで、荒唐無稽の極みである物語にリアリティを担保してしまう。
 ゴリラと「わかりあっている」はずの少女と、「全然わかりあえてない」はずのエージェントとの関係を対比し、双方とゴリラの心の交流を描くことで、人と動物の関係の難しさや断絶、それでもどこかに残る通じ合うものを見出して行く……って、まったくの正統派動物映画じゃないですか! 果たして、ゴリラと人間はつながれるのか……?(まだ『ディス/コネクト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140601/1401624941)を引きずってる)
 こうしてわかりあえなさを描くからこそ、なぜかゴリラが人間のために立ち上がる展開にはむしろ不条理さを覚えるのだが、それの理屈の通らなさこそが人と動物の関係を象徴しているのかもしれないね。『猿の惑星 創世記』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111014/1318343207)では「NO」だったが、今作では「YES」なのだ。


 まあ結論から言うと、せっかく試合が綺麗に終わったのに、その後でゴリラの大乱闘でぶち壊しになるクライマックスは、ほぼアンチカタルシスで、凄絶なまでの虚しさが去来する。所詮、野球は無理だった……。だけど、ゴリラだからこうなるしかないし、そもそも無理だったのだ……。ひと時の夢の時間を終え、少女とゴリラは「ホーム」へと帰っていく。だけど、塁を回る間に得たものもある。


 韓国映画らしく、見たような顔のおっさんたちが続々登場し、そこに我らが国際派スター・オダギリジョー中日ドラゴンズのオーナー役で加わって盛り上げる。日本球界に言及するシーンもあったが、この実名使用はOKなのか。そして読売ジャイアンツのオーナーはナベツネじゃなかったけどワタミっぽくて、どっちみち悪質そうなものを感じたね。
 日中韓の三カ国映画ということで、やっぱり字幕で観ておきたかった映画でありました。思いのほか真面目な話であったのが少々意外でしたが、なかなかの快作。