”今日は何回のお祈り?”『ドン・ジョン』


 JGL初監督作!


 ジムで筋トレし自分磨きに余念がないジョンは、毎日異なる美女をお持ち帰りするモテる男。友達からはドンと呼ばれるが、理想をポルノビデオのようなセックスに置いている彼は、どこか満たされぬ日々を送っていた。そんなある日、バーバラという美女をお持ち帰り失敗した彼は、彼女に理想の美女像を見出すのだが……。


 ポルノの帝王の話ということで、てっきり『ブギーナイツ』(観てない)みたいな話かと思ってたら、全然違いましたね(多分)。主人公は毎晩ナンパしては美女を持ち帰るマッチョのモテ男だが、それだけでは必ず満足できず、ポルノ見ながらオナニーする男。あまりにその頻度が高いので、仲間内(と言っても他は二人だけど)から「ドン」と呼ばれている。


 柳下毅一郎叶井俊太郎を評して、「600人の女性とセックスしてちゃんとした関係を築けなかった彼は女性をまったく知らない童貞と実は同じなんだ」と言ってるが、まあ結局のところこれが全てなのだな。外見や、乳や尻で選ぶなら、そりゃあスカヨハさんがマストに決まっている。でもフェラはしてくれないし……と贅沢を言っている。だが一方で、彼女の側からも、顔が良くてマッチョでモテる彼だけど、学がなくてバーテンなんかやってるのが欠点……と、同じベクトルで評価されていることが明らかになる。
 また、息子に彼女が出来て喜んでいた母親も、それは息子のためでなく単に自分の見栄、同世代と比べて孫がいないという劣等感によるものであったことも見えてしまい、何だそりゃあ、自分の都合だけやがな、となるわけだが、それは主人公自身も見事にその通りであるという、まさに人のふり見て我がふり直せ、というお話。


 主人公の自己完結ぶりが面白く、女性を「点数」などパラメーターでしか見ないところ以外にも、わざわざ行ってる教会での懺悔もお祈りの回数でしか計れないなど、数値化して物事を考えたがる単純さがある。日課としてやっているウエイトトレーニングも、映画内ではあまり詳しくは描写されないが、まさに体脂肪率と体重、負荷と回数でコントロールするものだし……。
 シーツを毎日きれいに敷き直し、丹念に床掃除をする几帳面さ、PCは絶対に斜めに置かず、きっちり前に座ってオナニーする。セックスに関する多くのことはポルノに求めていて、不満は持ちつつも生身の女性に要求はしないあたりもまた、その自己完結を示しているな。
 対してスカヨハさんのキャラは、これはモテる女の傲慢か、夜学に行って資格を取れ、部屋は自分で掃除するな、ポルノは見るな、と次第に要求をエスカレート。男の「献身」があって初めて完結するキャラになっているのだね。チャニング・テイタムアン・ハサウェイの主演していた作中の恋愛映画が象徴的。しかしこの人は本当にこういう役がはまるな……。きっと本人もこんな人に違いない。Facebookにあげまくっている自撮りが、流出した元旦那宛のヌードのパロディのようだ……。
 両親が絶賛する中、覚めてスマホをいじってばかりの妹だけがそれに気づいているが、それも「結婚しろ」と言われ続けている兄が矢面に立っていて、一歩引いた位置から見ているからであろう。
 自分は相手にそんな過大な要求はしないし、それに比べれば相対的にはまし……というのが主人公の立ち位置だが、「理想の美女」のはずが破綻を迎え、じゃあどうすればいいのか?
 ここで出てくるのが、夜学で知り合った超年上の女ジュリアン・ムーアなのだからびっくりですね。同じような女しかいないクラブじゃなくて、多彩な人種、年齢層の男女が集う夜学ならではの出会い。年齢やら乳やらは重要ではなく、コミニュケーションとしてのセックスが重要なのだ、と主人公を導くのであった。そして、筋トレばっかりやっていた男は、たまにはバスケというチームスポーツでもやってみるか、と思うのでありました。
 実に理屈の通りまくったお話で、その主人公の几帳面な性格同様、むしろやや理が勝ちすぎているんじゃないか、と思うぐらいにまとまっているね。きっとJGLの性格なのだろうな。しかし、あのお祈りしながら筋トレするのは、なかなか気合入りそうでいいなと思いましたよ。何か文句を考えて真似してみたい!


 この後、ハネケの『ピアニスト』を劇場公開時以来に見直したが、ポルノ観てSM妄想を膨らましすぎて、実際の男との関係がうまくいかないイザベル・ユペールさんが、この『ドン・ジョン』と重なって、めちゃ理解が深まってしまいましたよ……。ぶって!と言ってたのに、実際ビンタされたら、痛っ! もう無理! となっちゃうとことかな。そりゃあビデオじゃ気持ち良さそうにしてますが、それは演技ですから……。

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