”テーザー銃と間違えました(映画違い)”『ロボコップ』


 あの名作がリメイク!


 近未来、巨大企業オムニコープが戦闘ロボ開発で躍進。しかし、米国本土では機械に殺人を行わせることによる反発が根強く、規制によって出荷することが出来ずにいた。そんな世論を打開すべく、オムニコープは新製品を発案する。ただの機械ではなく、負傷や障碍によってハンディを負った人間に機械を組み込んだサイボーグに、警察能力を持たせようというのである。その頃、警察内部の汚職を負っていたアレックス・マーフィ刑事が、自家用車に仕掛けられた爆薬によって重傷を負い……。


 オリジナルは言わずと知れた傑作だが、今作はもうおおまかな設定だけが残ってほぼ別物に仕上がっていた。すでにED209他、ロボット兵士も海外で実用化されていて、単に「親しみやすさ」の獲得のために、人間をパーツとして組み込んでしまう、というお話。
 マイケル・キートン社長は、国内でもロボを配備するために、禁止された国内法を廃止するための世論作りに、人間とロボットを融合させた新たな刑事を作ろうとし、出資先の研究所のゲイリー・オールドマン博士に開発を命じる。


 オリジナルとの最大の違いが「アレックス・マーフィ」に連続した記憶と自我が残っている点。気がつけば機械の身体になっていて、生身は脳味噌と肺と右手だけの姿になってて大ショック!……なんだが、それを普通に本人に予備知識なしに見せてしまうゲイリー博士は、なんか人格破綻者のようだな……。観客をドキッとさせること優先で、真っ当な人間の行動との矛盾が思いっきり出ているよね。で、案の定「もう死なせてくれ」と当たり前なことを言い出したマーフィに慌てふためき、「ご家族が会いたがっているんだ」、と必死に説得を試みようとする。いや、これを言い出す事を少しも想像しなかったのであろうか? が、せっかく倫理的に重要な問いを発したにも関わらず、マーフィは「あ……うん」と、たったこれだけでその問いを引っ込めてしまうのであった。いや……これはこの人も自主性なさすぎというか、スルーするぐらいなら、触れなくても良かったんじゃない? 企業が金儲けのために人間様を改造してしまうということに、科学者も家族も乗せられて尊厳が失われた……という最悪のおぞましさが出発点としてあるのはいいとして、それならばそこからの脱却、やはり死を選ぶのか、それともそれを背負ってでも生きる道を選ぶのか、父として、夫として、警官として、人間として……そういったドラマを描くべきところを、表面だけちょっと触れてあとはスルーしてうやむやにしてしまうからびっくりした。結局、上の問いは家族にも突きつけられることはないし……。
 そんなマーフィを、ゲイリー博士はさらに改造し、残った脳までいじってコントロール下に置いてしまうのであった。その後は、社長の悪巧みと博士の改造が主体化し、マーフィは個性の感じられない無表情で動き回るだけの文字通りロボットと化して行く。


 オリジナルでは『ロボコップ』を作った博士キャラは単なる背景だったのだが、今作では正面に押し出したことで、話の構造が『フランケンシュタイン』になってしまっているのだな。創造主側のドラマが中心になり、お話が分散してしまう。さらに、作られた側の個性がこう薄くては……。その状態でどんなアクションをやっても、そりゃあ盛り上がるわけがないので……。主役であるはずのマーフィが完全に傀儡化してしまい、さらに最初に自意識を発露するシーンをうやむやにしてしまったので、何をしたいのか、何を求めているのかがまったくわからない、主人公と言える存在じゃなくなってしまったのが痛い。驚くべきことにこのうやむやっぷりはクライマックスになっても継続されていて、赤バンドをつけた人は撃てないようにプログラムされているはずが、何だか知らないが気合でなんとなく撃ってしまうという、何のロジックもない衝撃的な展開になってしまう。


 博士側のドラマにするにしても、結局ゲイリー博士が社長に反発するのが、「自分のやってるここぐらいまでは許されるけど、それはさすがにやりすぎじゃ……」みたいな甚だ緩い倫理観ゆえのようで、こりゃあ共感のしようもない。このキャラクターがまず相当ダメな奴なんだが、映画ではなぜか善玉のようになっているからおかしい。社長もその部下のジャッキー・アール・ヘイリーも、ただの資本主義の走狗のようで魅力に欠けるのだが、それを成敗する主人公も結局自分の敵討ちぐらいしかドラマを背負えていないので、成敗してもまったくカタルシスがないのである。


 そもそも、あのテーザー銃が諸悪の根源だと思うんだな。悪党に対しては、まずは鉄拳! それで反省しなければ今度はぶっ放す! 喉をかっ切る! それが、なんだあの気の抜けたビリビリは……。あれではジャッキー・アール・ヘイリーがマーフィを恨むのにも、迫力がなくなってしまう。
 さらにクライマックス、せっかくビルの屋上のヘリポートにまで登って、そんな高いところまであがったらやることは一つしかないだろ!と思うんだけど、誰も落ちないのである……。


 最初からテレビでも「マーフィ刑事」とか呼ばれてるし、マンスティ方式で、もう『ロボコップ』の名前は使わなくても良かったんじゃないか。いっそのこと、アレックス・マーフィじゃない別の人にしちゃってくれてたら良かったかもしれないね。2丁拳銃だとか、相棒の名前がルイスだとか、オリジナルのどうでもいい格好ばかりなぞっているところも減点だ……。
 アクション的にはそこそこ動いて、ED209も撃ちまくっているのだが、キャラが全然立っていないのでちっとも印象に残らない。世界設定は色々と頑張っていて、ビジュアルや社会情勢の設定など一生懸命考えたのだろうな……と思うのだが、解答を用意せずに密室にしちゃったミステリのようで、作り手はまず世界だけ作って、そこで自縄自縛されてしまい、その中でドラマを展開させることができなかったのではないか。オリジナルと同じ物を作っても越えることは決して出来ないけれど、違うものを作ろう作ろうとしても結局はそれは縛られていることと同義であり、オタクが半端に世界情勢に目配せしたような小賢しい代物に仕上がっちゃったのは皮肉なものである。