”笑う殺し屋”『KIL』


 大阪アジアン映画祭2014、五本目!


 人生に絶望し、自殺を試みては失敗を繰り返していた男は、ある日、街で目にした番号に電話をかける。そこは自殺を幇助するために殺人を引き受けてくれる企業だった。だが、組織と契約を結び、死を待つばかりとなった男は、ある女と出会い……。


 中国、台湾、韓国映画ばかりチョイスしてしまったが、これはマレーシア映画。殺し屋もののサスペンスのように粗筋は書いてあったものの、割と静かな人間ドラマらしい、という情報は事前に入手していたのであった。


 今映画祭でもかなり低予算な部類で、実際自主映画に近いスケールだったらしく、果たして物語は会話劇中心。ひたすらしっとりとした音楽とウエットな演出で、主人公と、マレーシアの橋本愛といった風貌のヒロインの会話が続く。人生に絶望した男が、一人の女と出会い、その寂しさをやがて薄れさせて行く。自分はひょっとしたら人生をやり直せるのではないか……静かな幸福が胸を満たす。だが……もう殺し屋会社に自分を殺っちゃってと依頼しちゃったよー! ばよーん! しかも迫る殺し屋の正体とは……!


 もうちょっとサスペンスフルな演出がされていたら、最後は実は殺し屋だったヒロインと悲しき決戦になる……と思うんだが、やっぱりそれにしてはちょっとウエットすぎで、まあいい話に着地するのだろうな、とわかる。殺し屋会社のボスがまるで喪黒腹蔵のようなところはなかなか良かったね。やはりオチはアレなんだが、この人の得体の知れない感じの存在感がお話を支えていた。全然お金が動いて見えないあたりも、実にファンタジックだったが……。


 さすがにちょっと中盤は間延びしたが、緊迫感を期待せずに、ゆったりとした時間の感覚に身を任せればまあ悪くない。プロット的にはせいぜい30分ぐらいがふさわしかったと思うが。いっしょに観ていた妻曰く「世にも奇妙な物語の一本みたいな話」だそうで……。