”あの線を越えさせて”『越境』


 大阪アジアン映画祭2014、三本目!


 運転士のファイは、本土に家族と暮らしながら、雇い主である香港の富豪の元に通い働きをしていた。第二子を身ごもった妻を香港へ連れて行きたいファイだが、制度の壁に阻まれてしまう。一方、雇い主の妻であるアンナは、ある日、夫が帰らないことに気づく……。


 こないだジョニー・トー監督の『ファイヤーライン』を見たとこだったのだが、あれにも医者役で出ていたカリーナ・ラウが主演。いやはや、この人って、永遠にちょっとハイソでお高く止まって見られる人の役回りなのね。今作ではまさに金持ちの有閑マダムを絵に書いたような存在で、香港在住。留守がちな夫と海外留学中の娘のいない中、社交とボランティアに勤しんでいる。
 が、なんと旦那が会社を畳んで夜逃げしてしまい、カードが止まった状態に。とりあえず風水の先生を呼んで、金の象なんか買っちゃってお金がまた入るようにする……って間違い過ぎだよ! 有閑マダム仲間にばれないように普段の生活を装おうとするが、「えっ、なんでキャッシュで払ってるの……?」というところでバレバレなのが悲しい。そして金に困って売り払われる金の象……。


 対するもう一人の主人公として、彼女の運転手であるチェン・クン。本国での一人っ子政策下で二人目をこさえてしまい、罰金を払わずに済んで戸籍も取れる香港でなんとか産ませたい……のだが、妊婦連れで国境越えはどう考えても監視の目が厳しい。闇で出産ツアーもあるのだが、当然金がかかり、給料の前借りを申し出るも、ご主人は上記の体たらくであった……。
元カノの看護師に頼んで出産の予約を取ろうとするも、あえなく拒絶。八方塞がりで時間だけが少なくなり……。


 お金持ち奥様の見栄と財布のせめぎ合い、貧乏運転手夫婦に迫る出産時期と、二つのドラマが並行して進む……のだが、社会問題である中国・香港間での出産と、旦那に夜逃げされて金がない奥様では、ちょっと深刻さに差がありすぎて苦しくないか。カリーナ・ラウの金策にニヤニヤしつつ、チェン・クンの深刻さにどよーん。段々と金策の話はどうでも良くなってきて、出産の話をはよう進めんかい、という気持ちになるのであった。
 撮影はクリストファー・ドイルで、美しくも生活感に溢れた情景を撮り、今の香港・中国を画面に収める。広々としつつも着々と現金がなくなるカリーナ・ラウ宅と、不安から狭いベッドで求めあうチェン・クンと妊婦の対比……。
 まあ悪くはないんだけど、奥様側の話のどうでもよさが響き、いささか推進力に欠ける映画でありました。せっかくラストで侠気を見せる展開につなげるんだから、もうちょっとメリハリが欲しかったなあ……。

ファイヤーライン [DVD]

ファイヤーライン [DVD]

妖魔伝 -レザレクション- スペシャル・エディション [Blu-ray]

妖魔伝 -レザレクション- スペシャル・エディション [Blu-ray]