”物語の向こうへ”『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』


 ヒット・ガール(とキック・アス)が帰ってくる!


 ついに高校生になったミンディと、卒業を控えるデイヴ。一度はやめたものの、キック・アスとしてのヒーロー活動が忘れられないデイヴは、ミンディとコンビ結成を持ちかけるもすげなく断られる。ならば、とネットで集まるなり切りヒーロー達と組み、ストライプス大佐と共に「ジャスティス・フォーエバー」を結成するデイヴ。だがその頃、キック・アスに父を殺されたレッドミストは、マザー・ファッカーと名を改め、キック・アス抹殺を狙っていた……!


 三年を経て、ヒット・ガールもついに高校生に! 対してキック・アスは、ますますヒーロー活動にのめり込み、特訓中。今回は最初からダブル主人公体制で、二人がそれぞれ並行して人生を歩み、時に離れ時に交わるという体裁を取っている。
 ギャップに戸惑いながらも初めて「普通」の人生を経験することになったヒット・ガールと、大佐というヒーロー道の指導者のもとで活動するようになったキック・アスの立ち位置は、前作のお互いの立場、冴えない学生と狂気的な父親に指導されるヒーローというポジションを入れ替えたかのようだ。
 必然的に経験する事象も裏返しになっていき、同じだけの経験を経て、二人はついに立ち位置を同じくし、互いを理解することに近づいて行くのである。


 ビッグ・ダディと大佐という「ヒーローとしての父親」に対して、社会における父親も二人の人物が対比になっている。ヒット・ガールの正体を知りながら、それをやめさせて普通の生活をさせようとするマーカスと、息子の正体を今作で知るデイヴの父だ。前作ではむしろ良心的ポジションだったはずのマーカスさんのダメさ加減が一気に噴出してきていて、あなたね……知ってますか……? キャリーという名の少女を襲った悲劇(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131203/1386075969)を……。「普通」という枠に人を押し込めることのおぞましさを……。キャリーにもゲロゲリ棒があったら良かったのになあ。


 二人の立場を入れ替えてストーリーにもやもやと引っかかりを持たせ、キャラをさらに立てていくことで物語ることを優先したような作りのせいで、話の推進力が削がれている感あり。キック・アスのモノローグにも単純に共感しずらくなっていて、それは彼もまた大佐という狂人の論理に沈み込みつつあるからだ。一応、溜めて溜めて、父の死で無力感が、さらに悪逆にも程がある葬式襲撃で怒りが頂点に達したところで、ついに逆襲が開始されるところにカタルシスが来るように設計されているのだが、それでもなお、葛藤を抱えたまま戦わざるを得ない。


 最終的に「ジャスティス、フォーエバー!」の掛け声に帰着させ、ある程度肯定的に描くために、ずいぶんと大佐のキャラが薄くなってしまった感も否めない。せっかくジム・キャリーをキャスティングしたのに、ビッグ・ダディのような狂気性を描けずに印象に残らないキャラクターになってしまった。あまり狂ったキャラにしてしまうと、ラストが狂信的な印象になってしまうからな。これならキック・アスが発奮して指導者になるような展開でも充分だったろう。


 この戦いに意味はあったのか、二人それぞれが失ったものの大きさは……だが、それでもなお『キック・アス』シリーズは「選択」の物語だ。道は分たれ、それぞれに進む。成長したヒットガールはもはやマスコットではなく、マッチョになったデイヴももう「ぼくたち」とは違う存在になった。二人は物語の向こうへと去り、残されたなりきりヒーローたちにも、また人生を選ぶ瞬間が訪れるのだ……。


 まあ面白いし全然嫌いじゃないんだが、後日談としてはなかなかに惨いもやもやとさせてくれる内容で、手放しで褒めるという感じではなかったですな。そんな中でミンツ・プラッセくんの頑張りと、マザー・ロシアの大活躍が一服の清涼剤のようでありましたね。一対一でヒットガールを圧倒する者がこの世に存在したとは……(いや、女子高生vsボディビルダーなんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど!)。

ヒット・ガール (ShoPro Books)

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