”僕の片腕を君に捧ぐ"『スノーピアサー』


 ポン・ジュノがハリウッド進出!


 地球温暖化を防ぐために散布された冷却物質によって、逆に地上の温度は急激に下降し、氷に閉ざされた。生き残ったわずかな人類は、永久機関を搭載し、地球を一年で一周する鉄道「スノーピアサー」に乗り込み、すでに17年を経過していた。最後尾で暮らすカーティスたち貧困層の人々は、物資や水を独占する前方車両の富裕層に憎しみを抱いていたが、かつて起こした反乱はことごとく鎮圧されており……。


 傑作『母なる証明』から、もう結構経つよな、と思っていたが、ここでまさかのハリウッド進出。コミック原作で、富裕層と貧困層の対立を描いた『TIME』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120223/1329991911)や『アップサイドダウン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130924/1379935418)みたいなお話に、ソン・ガンホやら斧やらを持ち込んだということで、こりゃあそこそこは面白いに違いないと思って見に行きましたよ。


 作中の思想ばかりが先立って、物理的な障害を突破するロジックが不足してるってのが、この手のジャンルじゃ失敗する条件だと思うが、「扉が空いてるのは4秒」「給水所を抑えたら有利になる」など、むしろちまちまとしているぐらいに設定を作ってある。17年も列車の最後尾で働いてきたキャプテン・アメリカが、前方車両からの謎の手紙に基づいて作戦を立て、突破を目指す。
 前半は登場人物のバックボーンから何から全部設定も投げっぱなしで、ガラッとテンションの変わってくる後半にそれらを順番に解き明かして行くという構成。コミックが原作ということで、かなりガチガチにお話も作り込んであって、同ジャンルの映画よりもむしろ、『いばらの王』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100522/1274527145)にも似てる手触りを感じたところですよ。


 出来上がってる物語に加え、キャストも定評ある面子がずらりということで、ポン・ジュノ的にはやりやすかったのか、やりにくかったのか? おなじみガンホさんを投入したものの、強烈な「異物感」を発揮するまでは至らず、このごった煮な物語の一つの味付けに留まった感あり。もちろん、作中の予定調和を破壊しようとする役回りを負っている分、美味しいわけですが。
 ヒゲなんか生やして、「昔はワルだったんだぜ……」と述懐するキャップさんは、やっぱりどうしようもなく優等生っぽくて、「次のリーダーはお前!」とみんなに言われても、成績のいい人が学級委員長や生徒会役員に自動的に推されるような弱々しさをどうしても感じてしまう。そんな期待にプレッシャーとコンプレックスを感じつつ、必死にお勤めを果たし続ける彼だったが、それもまた「試験」をクリアしているがごとき虚しき道程(童貞とダブルミーニング)であった事に気づいた瞬間のショックの表情なども良かったですね。


 格差社会の前方へと進んでも、それはどのみちレールの上を走っていることに他ならない、という、夢の世界一周鉄道のはずが嫌な隠喩をこめられて鉄オタ激怒ものの設定だが、キャップさんとガンホは、同じコースをたどって前進しているはずが、それぞれ全く違うものを追っている。その優等生とアウトローの違いとでも言うべきものが、クライマックス前の全然噛み合ってない述懐で可視化されるが、結局のところレールもその上を走る鉄道も、誰かが自分の都合で作ったものに過ぎない。先頭や終着駅にたどり着いた時、何をするか、何になっているか、何を選ぶかは、それぞれが決めることであり、同じレールの上を走っているように見えても、見てきた景色も見た夢も皆まるで違う。ある者は扉に、ある者は片腕に、その信じる全てを賭す……。


 筋もさることながら、中盤の学校シーン以降の変なテンションとティルダ・スウィントン総理の大活躍ぶり、美術の統一感も面白く、黒い羊羹などインパクトある小道具も多くて、全局面で楽しめましたね。
 『ヘルプ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120407/1333791288)の人の暴れっぷりや、ジェイミー・ベルの運命の子だったはずが外してしまう感じ、安定のエド・ハリス力も良かった。ポン・ジュノさんがハリウッドで一本撮って、はてさて楽しかったのかもう懲りたのかはわからんが、また次回作にも期待したいですね。

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