”最後の息吹を感じ取れ”『ザ・イースト』


 ひさびさ、エレン・ペイジ出演作。


 環境汚染や薬害をもたらす大企業をターゲットにし、その経営者や要人に対して「目には目を」とテロを繰り返す集団「ザ・イースト」。FBIもマークするその集団から企業を守る会社に採用されたジェーンは、アンダーカバーとして「ザ・イースト」に潜入することに成功する。彼らの過激さと裏腹な実体を知っていったジェーンは、次第にリーダーであるベンジーに惹かれ、その行動に共鳴するようになっていくのだが……。


 主演はエレン・ペイジではなく、ブリット・マーリングと言う女優。観てないが『アナザー・プラネット』でも脚本・出演で高く評価されたそうで、まさに新星だな……。略してブリマリですね。


 人体や環境に汚染をもたらす物質を垂れ流す大企業に対し、意趣返しとも言える懲罰を試みる組織「ザ・イースト」に潜入するエージェントが主人公。元FBIだけど映画に出てくるスーパー捜査官ではなく、かなりの地味キャラ。民間の調査会社に就職し、前歴を活かして潜入……ということで、下手したら命も危なげな仕事だが、ギャラがいいのであろうか……。
 彼氏と同棲しているピカピカのマンションを出て、山の中で環境を意識して暮らす「ザ・イースト」に潜入。リーダーはカリスマ的存在であるアレクサンダー・スカルスガルドで、切込み隊長っぽい役でエレン・ペイジ。ゴミを集めて食べ、お互いの身体を洗い合い……ってあたりで、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130313/1363170404)のカルト集団のような雰囲気を感じたが、この主人公も文明社会の矛盾を批判する「ザ・イースト」の思想に影響されていく。
 『ゼロ・ダーク・サーティ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130221/1361458559)のような、組織の論理と人間性のせめぎ合いも絡みつつ、「知ってしまったから」「身内が関わっているからこそ」放っておけないのだ、という冒頭で語られたテーマも徐々にその裏側が明かされて行く。
 「ザ・イースト」内部にも意見の対立があり、その行為の価値判断は観客に委ねられ、主人公の葛藤を追体験する。資本主義社会の暗部を突き、見て見ぬ振りをする者に語りかけ、いつ自分が犠牲者の側に回るかもしれない、と問いかける。その問いは、やがて資本主義を積極的に守ろうとする者に向けられる。


 多数の価値観で主人公を揺さぶり、一面的な考えから脱却する通過儀礼も盛り込んだシナリオは実にバランスが取れていて、平凡を絵に描いたような恋人から、どこか傷つきやすげなカリスマへと流れていく過程も、主人公の「転向」と共に無理なく描かれている。
 大筋としては、薬害や環境汚染をもたらす企業への批判で貫かれているが、立ち向かう手法として「ザ・イースト」がすべて肯定されるわけではなく、むしろ主人公の「気づき」や独自の方法を選ぶことに寄り添う視点が興味深い。月並みだが、物事を変えていく方法や手段は一つではないし、それを模索して行くことこそが重要なのだろう。


 かくも真面目な話だが、当然のように暴力も殺人もあり、それでいてはっと目を奪われるような美しい映像もありで、エンタメとしても飽きさせない作り。特に馬と鹿のところは良かったな。ブリマリの次回作にも注目したい。


 エレン・ペイジは、不安定演技にますます磨きをかけているな。今作での折れそうな危うさも素晴らしい。アレクサンダー・スカルスガルドは、今回初めて父親に似てるな、と感じたよ。そのお父さんはお父さんで、『マイティ・ソー ダークワールド』において大変なネタ演技を見せていましたが……。

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