”その血は高級品”『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』


 ジム・ジャームッシュ監督作。


 デトロイトで密かに暮らす吸血鬼アダムは、夜だけ活動し、音楽製作で生計を立てている。モロッコで離れて暮らす伴侶イヴの来訪、そして、イヴの妹エヴァの望まぬ訪問……。吸血鬼たちの静かな日常に、小さな波紋が走る……。


 初のジャームッシュ体験に行ってきました〜。一人ではスルーしたかもだが、パートナーが見たがっているし、吸血鬼ものだし、ミア・ワシコウスカちゃんも出てるしな。


 果たして、序盤はもう強烈に退屈でレイトショーということもあって熟睡寸前であった。ミアちゃんはなかなか出てこないしな! が、まあ観てると不思議と気持ち良くなってくるのがジャームッシュなのか? 全裸を披露するトム・ヒドルストンのムキムキっぷりと、ロキ役では感じなかった奇妙な老成ぶりの好対照が素晴らしい。気怠げに音楽なんか作って世を拗ねているようでいて、常に苛立ちを感じているような不安定さ。吸血鬼として幾歳月を過ごし、内面は熟成しているのだが、逆に地の短気で人嫌いなところも純化されて残っているようなキャラクターが見事に描かれていますな。
 パートナーのティルダ・スウィントンの安定感も抜群で、トムヒさんとは似た者同士ながら、自然になだめ役のようなポジションにいる。が、彼女の妹の登場で、また違った面が顔を出すのだな。


 ティルダ・スウィントン演ずるイヴの妹であるエヴァをやっているのがミア・ワシコウスカ。しかしまあ、いつもは可愛く「ミアちゃん」「ミアたん」と呼ぶところだが、今回はトムヒさんのイラつきっぷりそのままにイラついたぜ! おい、ミア公!
 彼女の妹、という微妙なポジションの女に対し、まあ彼女の顔を立てて気も使うわけだが、それをいいことに増長し、姉と同じ扱いを求めるミア公。昔も腹立てて追い出したけど、まったく成長してなかったぜ! で、いつもは自分の味方であるパートナーも、結局抜き差しならぬことが起きるまでは妹の肩を持つもんだから、より腹が立つのである。血を飲んでニッカーと笑うシーンで、もうイラつきはピークだ! 出番は少なめであったミア公でしたが、今回は新境地でしたね。
 しかし、ティルダさんと二人して並んでいると、現実の二人は親子ぐらい歳も離れてるのに、設定も相俟って姉妹と言われても違和感ないのが不思議だ。ちょいと妹に引っ張られて茶目っ気を出すあたりの設計もすごいわ。


 話の筋よりも、表情の付け方や「生活感なき生活感」とでも呼べそうな吸血鬼たちの自然な佇まいが素晴らしく、夜のデトロイト始め、ロケーションの美しさも心に残る。ひどく退屈だが、同時にどうしようもなく魅力的な映画で、旧作や次回作を観るかというと多分観ないわけだが、良き体験でありました。