”赤穂の地の天狗”『47RONIN』(ネタバレ)


 年末はやっぱり忠臣蔵ですね!?


 五代将軍徳川綱吉の世……。赤穂の地で浅野内匠頭とその娘ミカに、異国の血を引く少年が拾われる。カイと名付けられた少年は、頭の傷から天狗の縁につながるものとして恐れられていたが、彼自身は浅野家に恩を感じ、ミカに報いたいと願っていた。十数年後、吉良上野介は側室である謎の女ミヅキの妖術でもって、赤穂を手に入れようと目論み、浅野に毒を盛る。錯乱し、綱吉の前で吉良に切りつけてしまう浅野。断絶を命ぜられた赤穂の藩士たちは、忠臣大石内蔵助の下で浪人となるのだが……。


 珍日本映画というと、やっぱりそのカルチャーギャップ描写がお楽しみ。『ライジング・サン』でショーン・コネリーの披露する珍知識に笑い、『リトル・トーキョー殺人課』でドルフさんの鉢巻に悶絶し、『ローグ・アサシン』の事務所内の鳥居で失笑、『ラスト・サムライ』でトム野郎が「ボブー!」と絶叫するのに狂気を感じ、『ウインドトーカーズ』のニコケイと織田裕二の「ホリョダ」という台詞がいつまでもいつまでも耳に残る……とまあ、そういうものじゃあないですか。当然、この忠臣蔵が下敷きになっている(笑)という今作にも、それを期待したんだがなあ……。


 目が六つある怪物がいきなり大暴れしている赤穂の地、もうすっかりファンタジーものになっているのだな。同時に公用語は英語になっていた……。ケン・ワタナベが教養に溢れすぎているために都合良く英語ペラペラなのとは一線を画し、全台詞が英語! なんだよ〜、キアヌさんが珍日本語連発するのを楽しみにしてたのによお〜。
 珍日本映画は、アジアの一島国の一時代を外国に伝わった偏ったイメージで再現しているので、日本文化を真面目に考証すればするほど最後に残った小さなズレが大きな笑いを生むし、何も考えずに偏ったイメージだけをバンバンぶち込むとそれもまた加速度的におかしみを増して行く、のだが、あまりに原典から離れすぎても、そのギャップを楽しむ余地がなくなってしまうのだなあ……。


 混血児が産み落とされ、天狗に拾われ、それでも人の世に戻って「武士」となる……というストーリーと、その主人公が忠臣蔵に混じっちゃう必然性が全然ないし、ナレーションでもごもごと説明される、キアヌさんが浅野親子に恩義を感じていた云々のエピソードも実に適当で、彼がそこに混じってる違和感が最後までつきまとう。柴咲コウもお人形だしな。
 ガイジンだから、四十七士仲間にもクライマックス前までネチネチ疑われていじめられているあたりが、まあベタで面白いような気がしたが、気のせいであろう。登場人物がみんなわかりやすい台詞と演技で、「悪役ですよ!」「か弱いお姫様ですよ!」「威厳のある将軍様ですよ!」と、競ってステレオタイプを演じていて、シナリオ的に描き込まれているキャラが存在しないため、逆説的に個々の役者のアプローチや、お仕事に対する姿勢、本人の華などが透けて見えて、真田広之はやっぱりこんな役でも全力投球なんだなあ、と思いましたよ。出番多い分、『ウルヴァリン SAMURAI』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130927/1380280152)よりも気合入ってたなあ。


 お楽しみの討ち入りシーン、芝居に混じって潜入するあたりも真田広之の独壇場で、そこにくっついて来てなんとなくいるキアヌ、その他の45人という構図も寂しいが、見張りを倒して行くあたりにカタルシスもテクニカルな攻防も限りなく薄くて、寒い気持ちになりましたよ。顔が判別できる活躍をするのが赤西君だけなのだが、それも何だか無理に映してもらってる感がありあり。
 凛子と忠信もまあ頑張って悪役を全うしましたねえ。しかしがっかりしたのがシルバーサムライで、主君にビッグネームを譲ってせっかく残りの45人をあいてに大暴れを演じるチャンスだったのに、再登場した瞬間に爆弾で一合も合わせぬまま爆殺されるという体たらく。


 ラストの全員並んでのセップクなど、まあ「好きねえ……」と言うしかないが、話の進行上、恋愛話を反故にしないといけないので、生まれ変わりを持ち出すあたりも実に苦しい。しかし同じような題材でも『ラスト・サムライ』で平然と生き残るトム野郎に対し、キアヌさんの方が「死」をイメージして生きているのだな、ということはわかって面白かった。


 異文化交流と言えば聞こえはいいが、あまりにオリジナルの無視が激しいうえに明後日方向に吹っ飛んだガジェットが多すぎるため、作り手の思惑に奉仕するためだけのものに思えるのだよね。なんとなく連想するのが、色々な宗教の聖人をみんなエル・カンターレということにして自分の引き立て役に仕立てあげているあの一家ですが……。忠臣蔵はキアヌさんのおサムライごっこの道具じゃありませんよ!


 ところで、最後に真田広之浅野忠信が対決してたのは、一応炭小屋だったのだろうか? 微妙に気になるが、見返すつもりはまったくないのであった。ネタにもならないオリエンタルファンタジーで、見ている間もまあ辛かった。予告で出てきた出島?のシーンはほぼ寝ていたので、そこがもしかして死ぬほど面白かったならごめんなさい、まああり得ないだろうけど!