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”俺が船長や!by F”『キャプテン・フィリップス』


 ポール・グリーングラス監督作品。


 オマーンからケニアへと援助物資を運ぶ、米国マークス海運のアラバマ号。船長のフィリップスは二十名の乗組員を指揮して航海を進めていたが、ソマリア沖で海賊の襲撃を受ける。一度はやり過ごしたものの、執拗に迫る海賊は、抵抗も虚しく、ついに船内に侵入する。ソマリア人の若者たち四人は、フィリップら船員を人質に、アメリカから身代金を得ようと狙っていたのだが……。


 今の時代は世知辛いねえ、これからの若者はサバイバルだな、と言ってたお父さんが、自分がサバイバルする羽目になる話。もっとも、世界にはそれどころじゃないサバイバルしてる人たちがいました、というお話でもある。


 さて船長さん、宣伝じゃ「彼の勇気が……」みたいなことを言われていたが、マニュアル通りの対策は取れるけど極端に有能なわけでもないし、ブラック企業に勤めるごく普通の人で、船にやってきた海賊をやっつけることなんて当然できない。
いや、普通にアクション映画を見慣れてると何だか麻痺してくるのだが、ガリガリに痩せたお兄ちゃん四人がちっこい機関銃担いでやってきても、五秒ぐらいで倒せそうな気がするのだよね。が、栄養状態がいいアメリカのおっさんが十数人いても、非武装ではもう対抗しようがないのである。
 対する海賊も、子供やよそ者が混じっててチームワークもバラバラだし、つけいる隙がないわけでもないように見えるのだが、ぶっ放されてお亡くなりになる一人目には誰もなりたくない。
 ひりひりするもどかしい嫌なリアルさの緊張感の中、いかにもしゃべりすぎで苦しいキャプテン・フィリップス! 見てるこちらは彼が隠そうとしている船員の居場所もみんな知っているから、彼が自然さを装って海賊たちを誘導しようとしているのが異常に不自然に見えるし、息苦しさMAX。一番若くて貧乏な海賊少年が裸足なので、隠れた船員にガラス撒かれて大怪我するのだが、「やったぜ!」となっても良さそうなところが逆に一触即発の雰囲気になり、「あ、俺、矢面……」とますます緊張にさらされるキャプテン。しかし愚痴ることも出来ず、常に必死! まあ自分の命もそうだけど、船員や積荷に対する責任もあるし、ヘタを打てば責任をおっかぶせられるのではないか、と映画に描かれないところまで心配してしまう。


 海賊四人組のリーダーも、せっかくアメリカの船を抑えたのに端金では帰れないし、他の三人からの突き上げ、何より自分の日頃の生活がかかっている。「これからは俺が船長だ!」というのだが、言うまでもなくすでに海賊船の船長というポジションとしてキャプテン・フィリップスと似通った立場にいるのだな。


 両船長の駆け引きとせめぎ合い、互いの抱えた思惑と意地が交錯し、事態はどんどん悪化する。しかしまあ、海賊は英語が通じるし、フィリップスはいかにも主演トム・ハンクスらしいマイナスイメージのない人物で、常識人対決のようになっているあたりはちょっと物足りない。頭のいい人ならではの怖さと怖くなさのバランスが、やや安心寄りになっている感じ。海賊がもうちょい英語不自由な分からず屋で、フィリップスがもっと気の短い奴ならば、すごい大変な事態になっていたのだろうなあ。
 しかし、海賊のリーダーに対してフィリップスがその時々に応じて「ちくしょう、頭の回る嫌な野郎だぜ!」と思ったり、「ああ〜、この人だけでもなんとか話が通じて良かった……」と思えたりするストックホルム症候群にもつながっていく感覚こそが、作り手の狙い所なのであろう。


 後半は舞台を移し、前半のハラハラ感がかわいく思えるほど、狭い救命艇の中でシャツ一丁で銃を突きつけられたフィリップス船長の切なさが極限に! 座席位置を伝えたあたりまでは良かったが、もう緊張に耐えられない! と、錯乱して全然勇気のない人になるキャプテン! いいんだよ、それが普通だから……。ウンコ漏らしたとしても、絶対に笑わないよ……。


 終わってみると登場人物は誰一人得しておらず、内面の成長とかも何にもない、潔いぐらいにやり損やられ損な話で、そこがまたリアルであるなあ。しかし、海賊行為も、アメリカからこんなはるか彼方まで船を出すのも、どっちもやめればいいじゃんとはならず、それはこの世界の結果であり、ソマリアくんだりまでやってきて魚を大量にさらっていった日本含む先進国による収奪の産物だ。
 結局、銃弾という大国の論理によってフィリップスは生き残る。無自覚なままに収奪の加害者側にいた彼が報復の対象になることは必然であり、彼が冒頭で嘆く息子世代のサバイバルもまた、奪い奪われを繰り返すソマリアの海とつながっているのであろう。いずれ息子たちも、奪わなければ生きていけなくなる。僕たちは今も、自分と下の世代たちの首を絞め続けているのだ。

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