”明日の長官はオレだ!"『コールド・ウォー』 (ネタバレ)


 レオン・カーフェイvsアーロン・クォック!


 香港で、五人の警察官が車両ごと誘拐された……折しも警察長官は不在。指揮権を巡り、副長官のリーとラウは激しく対立する。人質の中に息子がいるリーは強引に捜査を進めるが、それに疑問を抱いたラウは彼の失態を突き上げ指揮権を手に入れる。だが、ラウもまた事態の混乱を招き……。


 長官不在時に起きた警官の誘拐事件を、次期長官を噂される二人が争う。一人は現場からの叩き上げ、もう一人はエリート。これはかなり期待していたのだが、どうもぼけた内容であったな。この二人、レオン・カーフェイとアーロン・クォック、どちらが長官に相応しいか、それぞれの長所と短所はどこか、というのが当然、話の肝になるはずなんだが、冒頭からいきなり誘拐事件が起こるため、平時の両者の人物評が台詞で後から説明されるだけ、という事態に。


 で、この事件というのがなかなかに曲者で、両者共にそれぞれ指揮を取っては翻弄されまくる、という結果に……。いや……この人たち……どっちもダメなんじゃないですか……。レオン・カーフェイとアーロン・クォックと言えば、フィルモグラフィを振り返れば数々のダメ人間、無能な人も演じているわけで、情に流されやすいベテランと杓子定規な若手という類型的な対比そのまんまに段々と見えてくる。


 そこを超えて、現場の人間の人望や組織の運営能力など、矛盾を抱えつつも清濁併せ呑んでトップに立つのはどちらかが相応しいか、というシビアな命題を問うて見せなければならないはずなのだが、図らずもその試金石となるべき映画内での事件が、まったくそういうものになっていない。


 結構、欲張りな構成なんだよな。不可解な難事件に、組織内部の権力者二人のせめぎ合いを絡めた内容は、決まれば面白かったと思うのだが、その事件が一方を利するためだけに仕掛けられたものなので、男と男のフェアな対決になり得なかった。結局、どこが優れているかも描かれない二人の争いは、まあそうなるしかないわな、という結末を迎える……。最後もこの二人の間での単なる手打ちのようになっているし、実際に現場や組織が今後どうなっていくのか、ということには大いなる不安が残り、なんともすっきりしないのであった。そこでお墨付きを与えるのがゲスト出演アンディ・ラウの貫禄……となってほしかったのだが、最近年取って枯れてきて、いかにも桃さんのことが心配そうな(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121212/1355307924)風貌になってるため、何だかあたふたと頼りない。
 あまりに主役二人が大したことないので、『裏切りのサーカス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120427/1335511056)のスマイリーみたいに、ラム・カートンが最後は長官になったりしないかと思ったのだけど、まったくダメだった……。やっぱりラム・カートンはラム・カートンだね、という結末を迎えました。


 まあ何がダメって、この犯人像がダメなんですね。冒頭からバカ息子を通り越して怪しげだし、実際の「誘拐」の瞬間が描かれないのも、逆にああ裏があるのね、と思わせちゃう。極めつけが「IQは192」だから、ああ犯人はこいつかあ……と中盤で当たりがついてしまった。いや〜、このキャラクターは賢い! すごい! というのにIQを持ち出されるとドーンと冷めて行くのだよな。
 いかにも「フハハハハハハハ、さあゲームの始まりですよ」と言いそうな役作りは、ダメな邦画にでも影響を受けたんじゃないかと思わせるチープさで、やっぱりこやつは『太極』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130820/1376909845)シリーズの咬ませ犬が相応しいよ、と思わせてくれました。
サイコかつ特異な、こいつがいるかぎり続編もありえるぜ!と言うようなキャラは、叩き上げの反抗というストーリーにもまったくそぐわないし、サプライズを演出しようとしすぎて全体の構成をすべらせたな……。こんな、バレなかったらレオン・カーフェイの勝ち、バレたらアーロン・クォックの勝ち、という内容にしちゃうから、両者の長所が全然見えてこないのだよ。
 別にこんなキャラにしなくとも、もう少し地に足のついた設定にして、ベテラン刑事たちの渾身の仕掛けとでもすれば、アーロン・クォックのキャラも対比として立ってきたろうし、男泣き度もぐっと上がったと思うのだがなあ。そうしてしまうとまあ『冷戦』ではなくなる……けど、もうすでに親子関係云々出てる時点で全然冷たくないから!


 ラストの花火の唐突さは面白かったね。ガッカリしつつ、『冷戦』がダメでも『毒戦』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130315/1363322007)があるさ!と自分を慰めるのでありました。もう観たけどな〜。

最愛 [DVD]

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