"刺青を背負わずに"『悪いやつら』


 チェ・ミンシク主演映画!


 税関職員だが、収賄の責任で一人だけ詰め腹を切らされてしまったイクヒョン。たまたま知り合った裏社会の若きボスヒョンベが遠縁の親戚であることに気づき、大伯父の威光をかさに彼の腹心になることに成功する。頭脳と話術でヒョンベを盛り立て、裏社会を泳いでいくイクヒョン。だが、ノ・テウ大統領が「犯罪との戦争」を宣言し……。


 『オールド・ボーイ』とかをひさしぶりに思い出すと、いやあ、チェ・ミンシクも太ったなあ、年取ったなあ、と思いますね。今回はその年齢とルックに相応しい、ちっとも格好良くないおっさんの話。金で買った公務員の地位もあっけなく奪われて、それでも妹の結婚のために金を出してやる見栄。失った妻からの信用を取り戻すためにも稼がねばならない、一家の長としての威厳を取り戻さなければならない。


 ひょんな縁から極道の世界に飛び込むことになるが、最初はバカにされているものの、公務員時代に培った人脈と口八丁で、次第に重要なポジションを得て行く。
 極道の世界、と言いながらも、ハ・ジョンウ以下の極道者は刺青入れつつもみんなスーツを着込んでいて、すでにかなり近代化されているのだろうな。さらに古い韓国の極道映画など振り返って行けば、むしろこのチェ・ミンシク的な価値観を持っている人の方が多いのではなかろうか。彼のような存在が異質化してしまった現在とのギャップを描く側面もあるのだろう。
 感情表現豊かなおっさんにしてみたら、ハ・ジョンウさんのような極道者は何を考えてるのかよくわからんのだけれども、口が達者な自分の価値観からすると、こういう男を自分が「補ってやらなければならない」と思えるのだね。逆に手は出すけど口は出さないから、自分が腕を振るうのに都合がいい側面もある。でも、やくざ者じゃない自分があまり表に立ってると、子分らにも憤懣が溜まってきて……。
 ハ・ジョンウの右腕役のキム・ソンギュン、ちょっと線は細いがやたらと喧嘩が強くて、ボディガード兼実働部隊長のような役回りをやっている人で、この人は最初からチェ・ミンシクがうっとおしくてしようがない。ボスの命令で彼のボディガードにもつかなければならないし……。で、逆にチェ・ミンシクはそれが気分いいわけだ。極道者の力がバックにつき、かつての上司を一発ぶん殴っても、あとは片付けてもらえる。


 そんなこんなで利害が一致して、ライバルも蹴落として我が世の春。ついでに商売敵の愛人も手に入れた……。予告でも印象的に使われた、「悪いやつら」が肩で風を切っていくシーンは、そこで使われる歌曲の力も手伝って印象深い。しかし、あまりにこのシーンのイメージが強くて、てっきり歌詞も「俺たちはやってやるぜ」ってな内容かと思ってたら、エンドロールでラブソングとわかってびっくりしたわ。


 しかしながら春は続かず、法律は厳しくなり、現代っ子ヤクザは段々おっさんがうとましくなってくるし、いよいよ抜き差しならぬ現場が訪れる……。
 正直、まったく極道に興味なくてすいません、という感じで、あまり面白くはなかったし、非・極道目線で観るにはあまりにおっさん臭くて個人的にはパス。いや、僕ね、ハ・ジョンウと同い年なんで……。

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