"恐怖を喰らいし者"『ティングラー』


 カナザワ映画祭2013、六本目。


 恐怖について研究する科学者ウォーレンが発見した奇怪な生物「ティングラー」。それは人間の背骨に寄生し、その恐怖に反応して実体化する生き物だった。それが人間の悲鳴によって動きを止めることを突き止めたウォーレンだが、もしも声を発せない人間が極限の恐怖を感じれば、実体化したままのティングラーを摘出できるのでは、と思いつく……。


 ついに二日目もラスト! この翌日『アルタード・ステーツ』を見ようかと計画していたのだが、台風接近のために帰りの時間を変更したため、今作が映画祭ラスト鑑賞と相成りました。前日の『ロッキー・ホラー・ショー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130925/1380105156)に続き、ライブ感覚が爆裂!
 映画祭前に大阪で無料上映された『ウィリアム・キャッスル・ストーリー』で、キャッスルの行状もばっちり予習していきましたよ。十五分ぐらい寝てたのはないしょですが……。数々のギミックを仕掛け、話題を作り、時に滑って来たキャッスルの最高傑作、それがこの『ティングラー』だ! ちなみに一番儲けて認知度も上がったのが、製作に回り、ポランスキーとかいうわけのわからない若造に監督させた『ローズマリーの赤ちゃん』だったというお話。


 今回は仕掛けが多くて、例年以上に開場が押しに押しまくったので、前日の『ロッキー・ホラー・ショー』共々、結構時間待ちしましたね。座席が震える仕掛けのテストに時間を食っていたのであろう。公開当時、恐怖で体調を悪くする人がいた時のために、看護婦を待機させる、という仕掛けもやっていたそうだが、この映画祭でも当然、待機!



 まあ医者や看護婦が必要だったのはこれじゃなくて『ハッピー・アイランド』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130926/1380195292)だったんだけどな!


 椅子の下に這ってるコードなどにどうしても注目が集まりましたが、映画自体もかなり面白かった。まず人間の背骨に寄生している怪物、という発想が普通じゃないし(田中啓文『水霊』を思い出した)、その発想を仕掛けへと直結させていく持って行き方が抜群に上手い。舞台が映画館、というのも実にさりげなくネタ振りしているし、登場人物がそこに絡んでくる必然性もきっちり描いている。
 ヴィンセント・プライス演じる主人公の科学者は、研究に没頭しがちで妻もほったらかし、科学のためなら何をやらかすかわからない男、として描かれている。観ているこちらも『ティングラー』とはいったい?という興味が先に立つので、この人が無茶な実験を始めても、いいぞどんどんやれ、という気持ちになるのだが、中盤ではさすがにどん引き! いや、それはダメでしょう! ……と思ったら、それはミスディレクションで真犯人は別にいたりして、いやはや、すっかり騙されてしまったよ。現代のミステリ系映画でも、こんなに引っ掛けられないのにな! シンプルさが奏功したか。


 まあピアノ線が見えてるのはご愛嬌だが、ついに『ティングラー』が劇場に侵入するクライマックスでは場内も悲鳴の嵐、大興奮でありました。いやはや、盛り上がったなあ。代表の小野寺氏も、おそらくこの光景にほくそ笑んでいたろうし、きっとそれはキャッスルの笑顔そのものだったのだろうね。

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