"燃やしつくせ! 壊しつくせ!"『ザ・タワー 超高層ビル大火災』(ネタバレあり)


 韓国の大火災映画!


 地上108階、汝矣島にそびえる超高層ビル、タワースカイ。巨大なマンションでもあり、無数のテナント、レストランを抱える韓国経済の中心。だが、施設管理チーフのデホや、レストランモールのマネージャーであるユニは、高層階の防災設備に疑問を抱いていた。しかし、クリスマスイブに開かれるオーナー主催のパーティのため、彼らの主張は聞き入れられない。夜、上昇気流が吹き荒れるにも関わらず、人工雪を降らすためにヘリの編隊がやってくる。ホワイトクリスマスに、惨劇の幕が上がる……!


 架空の超高層ビルを舞台に起こる、未曾有の大火災。地上108階、450mというビルは韓国には存在せず、外観はすべてCGだそうだがかなり精度が高く、本物と見紛うところも数々。と言うか、ヘリ墜落シーンがやたらとCGっぽかったり、逆に炎が超リアルだったりと、クオリティにばらつきがあるせいで、何が本物なのか逆に混乱してくる。
 さらにそのCGの中で、生身の人間は高いところから突き落とされたり、顔を真っ黒にして実際に火をつけられたりしているので、どうしてもリアル側のインパクトの方が圧倒的に強く、じょじょに多少のCGくささはどうでも良くなってくるのであった。


 序盤、20分以上かけて、クリスマスパーティー前夜のタワーに集まる人々がフラグを立てまくる。ひしひしと感じられる大惨事の気配。足りない換気扇、凍結したスプリンクラー、パーティーの進行しか考えていない管理部門のチーフ、吹き荒れる上昇気流……。その中で、妻との約束やら娘との約束やら息子との約束やらを交わしまくるメイン級のキャラクターたち……。果たしてこの中で最初に死ぬのは誰なのであろうか……。
 『タワーリング・インフェルノ』やら『タイタニック』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120410/1334059681)やら『ワールド・トレード・センター』やらで、一個一個のシチュエーションは見たことがあったりするわけだが、架空の巨大ビルとそこにヘリコプターが激突するという、今作の肝である映画としての大ウソをまず見せて一本の芯としているので、つぎはぎにもなっておらず、見ているこちらも気持ちよくドラマに乗っかれる。
 メインキャラたちが奮闘する中、ビル内にいるその他大勢の人はガンガン死んでいき、爆発でビルから吹っ飛ばされて落ちて行ったり、エレベーターの中で丸焼きになったり、悲惨な展開が続く。当然、脱出も一筋縄では行かず、上下が燃えてるのでどちらにもいけない。消防隊もやっとこさ火元を消し止めるが、それはまだこれから起きる惨事の序章に過ぎなかったのであった……。
 火攻めの次は水攻め、おなじみの人災と続き、タワーにはまさかの倒壊危機が迫る。まあ基本的には、火災もまとめて人災に含まれるわけで、バカなパーティを強行しなければこんなことにはならなかったのだが……。その中で、政府は「要救助者リスト」を持ち出して、消防やレスキューにも命の序列化を迫る。政治家、ビルのオーナーなど……。
 詰め込める危機的状況を全部詰め込んで、映像もストーリーも妥協せずに突っ走る。主要登場人物も少しずつ減って行き、何人か脱出に成功するものの、残ったメンバーに突きつけられるビル爆破のタイムリミット……。序盤の伏線、フラグもじわじわ効いてくるので、とっ散らかった感覚を受けることもなく最後まで突っ走った。もちろん、「いや、これは無理だろ……」と突っ込むところもあるのだけれど、それも楽しいから!


 レストラン街の責任者役で、『私の頭の中の消しゴム』で頭に消しゴムをかけられた人こと、ソン・イェジンが出ていて、30歳過ぎて化粧は濃くなったけれど、かなり大人の雰囲気になってましたね。消防隊の班長のソル・ギョングも良かったですよ。




<ここからネタバレ>


 ラストのタワー一棟の倒壊は、もうビジュアルが完全に9.11だからドン引きした! あのもうもうと立ち込める白煙がね……。主役の一人である消防士の人が犠牲になるあたりも、間違いなく意識してるであろう。しかし、ビルのオーナーや政治家など、おまえらのせいだろ!という奴らは死なないまま締めるあたり、悲劇性と不条理さを残していて、こんな大げさな話でもちろんエンターテインメントなんだけど、「感動」ではなく「災害」を描こうとする一本通った筋も感じたところでありました。

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