”天空にそびえる城”『華麗なるギャツビー』


 何回目の映画化?


 ニューヨークへやってきた元作家のニックは、夜毎パーティの繰り広げられる謎めいた邸宅の隣に居を構えた。港を挟んだ向こう側に、いとこのデイジーが夫と共に住んでいるからだったが、ある日、ニックは隣家の主ギャツビーから宴への招待を受ける。誰もその正体を知らない大富豪ギャツビー……彼は何者なのか?


 バズ・ラーマンの映画って『オーストラリア』ぐらいしか観ていないのだよね(そしてなぜかたいがいの人は『オーストラリア』以外を観ているという……)。今回はトビー・マグワイアが出てるということで、観に行ってきました。


 何とも曰くありげな謎の大富豪、巨大な財産と豪華絢爛たる邸宅、夜毎繰り広げられる壮麗な宴……。その狂騒に魅せられた人間たちと、そこに紛れ込んでしまったトビー・マグワイア演ずる元作家の証券マン、ニック・キャラウェイ。謎めいた男ギャツビーに出会った彼は、少しずつギャツビーの虚飾の影にある真の姿に迫って行くこととなる。


 面白いことに、ギャツビー本人に取って、真の姿は徹頭徹尾、意味のない存在なのだな。虚飾こそが彼の目指すものであり、それの極まるところ、人生も変わる。かつて失った愛を再びつかむためには、以前から築き上げてきた偽りをよりグレードアップさせ、巨大なものとして示すしかない、という思い込みに取り憑かれている。パーティもそうだが、宝石やらオルガンやら、ほとんど常規を逸してるレベルにいっちゃってますよ。途中、車で出かけるシーンが何度もあるが、そのすっ飛ばしっぷり、ほぼ暴走と言えるその走りが、まさに生き急いでいる様の象徴なんですね。語り手であるトビー・マグワイアは、振り返ることでそこにあった「無理」を今さらながらに思い返す。
 先日観た『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130530/1369840345)なんかもそうなのだが、とにかく映画の中で乗り物をすっ飛ばすのはろくでもない未来の暗示なんですよ! 2Dで観たが、3D効果が最も発揮されてそうだったのは、この車のシーンであったな。


 空疎な、束の間の夢に生きた男なのだが、その夢見たものが全て偽りだったとしても、それに対して誰よりも真剣でどこまでも本気であり、手段を選ばず誰も到達できないような空中楼閣を打ち立てた、その熱意はまさに超人の領域だし、それをもって偉大、グレイトと称せられるべきである、ということが語られる。その心意気は本物で、まさに「物語」として語り継がれるべきものである……。しかし、その体験をして大きなトラウマを背負ったはずのトビー・マグワイアなんですが、全然アル中には見えないな。なんかタフそうだし……作中でもこの人は、失敗はしつつも全然自分自身はぶれてないんですな。だからこその語り手役なんだろうが、やはりスパイダーマンであった。今作の後も、またどこかへ流れてって次の小説書きそうな雰囲気むんむんですよ。
 そのあたり、俳優として成功し、世界的な人気があり、批評家からも高い評価を受けながら、同じ俳優には嫌われているレオナルド・ディカプリオという男を、友人であるトビー・マグワイアから見た目線も、またその演技に込められているのかもしれないですね。


 ドラゴンボールZの主題歌の「頭からっぽの方が、夢つめこめる」という歌詞をちょっと思い出したなあ。空っぽでもいいんだ! それでも美しさ、豪華さを求めるんだ! なぜなら僕にはそれしかできないからだ……! というのが、あるいはバズ・ラーマン監督の心の声なのかもしれないですね。

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