"暴走刑事始動!"『タイガー刑事』

タイガー刑事 [DVD]

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 ユエン・ウーピン監督作。


 熱血漢のテリー刑事は、仲間と共に麻薬取引の現場を急襲するが、あと一歩のところで主犯を取りのがしてしまう。しかも、チームのリーダー格で、結婚を控えたシュウ刑事が、逃がした犯人の襲撃を受け、射殺されてしまった。復讐に燃えるチーム。だが、チーム内に裏切り者がいることに、その時はまだ誰も気づいていなかった……。


 英語タイトルが『Tiger cage』なので『タイガー刑事』という、何とも安直な放題のついた今作。ドニー・イェンの映画出演三作目ということで、テレビ映画『ラスト・コンフリクト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111118/1321516491 )と並んで刑事役に初挑戦(公開年度は同じだが、どっちが先に企画されたのかは知らない)。後に定番となる暴走刑事キャラの雛形がここで確立されたと言ってもいいだろう。


 主人公であるジャッキー・チュンの親友である刑事役、というキャラで、何も知らずに見ていたら脇役の一人という感じ。キャストが揃って登場しているカットでもいたりいなかったりで、途中までは存在感を発揮しない。他にもン・マンタや、若い頃のサイモン・ヤムなど、濃いキャストが揃ってるしな。
 しかし、恩人であるン・マンタ刑事が汚職に手を染めていることを知ったことで爆発! 麻薬取引の現場を単身押さえ、組織の殺し屋二人と死闘を繰り広げる!

 冒頭の銃撃戦シーンでは見せなかったマーシャルアーツテクニックがここで大爆裂! 思わずぎょっと目を剥くレベルで動きが切れている。上体の動きだけで打撃をかわすムーブから、返しのジャブ代わりにハイキックを入れるあたり、身体能力高すぎ。今でこそ多彩な技巧と見せ方で楽しませてくれているが、こと肉体的な強さにおいては、この頃から数年がピークだったのであろうな。
 映画的には、脇役かと思っていた人が突然超絶的な強さで悪役を圧倒する、という歪な流れなんだけど、これはまさに後のドニー映画の定番となる展開のプロトタイプでもある。このシーンの強さはまさに別格で、ここでは殺し屋二人と二対一だったのだが、あとに登場する組織のボスや、警察の裏切り者を交えて四対一になったとしても、おそらく勝っていただろう……。
 しかし残念ながら、あくまでこれはプロトタイプなので、


界王様「ドニーはよくやった……圧倒的な強さで……勝負には完全に勝っていた。だが、追い詰められた裏切り者は、背後からドニーの後頭部を銃で撃ってしまったのだ……」


 後々よくある、映画そのものを強奪するような展開には至らず、ランタイムも半ばにして壮絶な死にざまでのリタイアとなる。ドニーさんが脇役として殺される映画は、後の『ハイランダー 最終戦士』『ブレイド2』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120214/1329220169 )とハリウッドでちょろっと仕事した時代の物の二本があるので、これらと合わせて三部作として記録しておきたいところ。
 刑事ドニーがもっと大暴れする映画を観たい人には、次作『クライムキーパー』がオススメです! これも脇役のはずだったんだがな……。


 途中のドニーさんの潔さと強さが印象的すぎて、後半はやや出涸らし感が漂うものの、充分に面白い。後に『ターゲット・ブルー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110908/1315402964 )に引用されたのか?とも思えるガスが充満する中でのバトルとか、車のフロントガラスをドロップキックでぶち抜くスタントも良かったね。ドゥドゥ・チェン演ずる刑事も散々ぼこぼこにされつつも鉄条網で反撃するシーンが熱い。
 ドニーさん含め人が景気良く死んでいくし、腐敗し切った警察を描き切った落ちも、そこで終わるの?という感じでなかなかに衝撃的であった。作中の80年代ファッションにも何かモヤモヤさせてもらえる、ドニー黎明期の快作である。

クライム・キーパー?香港捜査官? デジタル・リマスター [DVD]

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ハイランダー 最終戦士 [DVD]

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